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第36回

〝戦略〟こそが、がん治療の大きなポイント

ときには自力で頑張り、
ときには他力に任せる

がんの患者さんの目標は、なんといっても病を治すことでしょう。私が名誉院長を務める帯津三敬病院では、いつも患者さんたちが必死になって治療に取り組んでいます。もちろん、がんと対峙している方々は、「がんが治る」という気持ちを絶対に失ってはいけません。そのうえで、死後の世界に思いを馳せることも肝心だと私は思っています。
私は、アメリカのがんの心理療法の大家であったカール・サイモントン博士と懇意にしていました。生前、サイモントン博士は、私の病院を訪ねてくださり、患者さんたちにいろいろなお話を聞かせてくれました。
元々、博士は放射線の医師で、がんは心の持ち方ときわめて深い関係があることに気づき、心の持ち方を変えることでがんを退縮させることができないものか、といった研究を続けました。その結果、イメージする力を駆使した独自の心理療法を開発したのです。その療法こそ、世に言う「サイモントン療法」です。
博士によれば「がんを克服するには『絶対に生き抜くんだ』という強い意志が不可欠だが、意志が強過ぎると生への執着になり、がん克服の逆効果になってしまう」というわけです。この考えには、私も大賛成です。
がんを絶対に治癒させるという目標を掲げて努力するのは、とても大事なことです。しかし、そればかり考えていると、そのことにだけ心が囚われてしまい、自然治癒力の発露を妨げてしまいます。ですから、自分の努力(自力)と天の意思(他力)のバランスをうまく図ることが重要なのです。
がん患者さんは、頑張り屋さんが多いような気がします。言い換えれば、なかなか人に助けを求めないで、自分の力だけで踏ん張ってしまうケースが少なくないようです。
先述のサイモントン博士が、患者さんに「あなた方は本当に頑張っているのだから、たまにはご先祖様に助けを求めてもいいのではないか。あなた方には数えきれないご先祖様がいるのだから、そのうちの1人くらいは、あなたを助けてくれるでしょう」とユーモアを交えて話してくれたことを覚えています。
長い闘病生活のなかでは、いくら頑張り続けても、良い結果が得られないこともあるはずです。そんなとき、何がなんでもやり通そうと思い詰めるだけでは、十分な力を発揮できないことになりかねません。先祖に助けを求めるくらいの気楽さを持って、難局に対峙すれば、思わぬ力が発揮されて道が開けることもあるはずです。

方法論だけで語り尽くせないホリスティック医学

私の病院が掲げているビジョンは、人間を丸ごと診るホリスティック医学を実践することです。けれども、ホリスティック医学には確かな方法論が存在しません。それは、生命場を高めていくことを主旨としていますので「当院では、このような方法で治療を行います」といった体系だった言葉で言い表すことができないのです。
私は、肉体的な治療であれば西洋医学、生命エネルギーを高めるのであれば東洋医学などの代替療法を取り入れることを基軸に考えています。しかし、私の病院を受診する患者さんの大部分は、西洋医学での治療を終えられた方々です。したがって、肉体に働きかける治療の次は、生命場に働きかける治療を施す必要があるのです。
生命場に働きかける治療はたくさんありますが、危険が伴ったり、法外な費用がかかったりするようなもの以外は、基本的に患者さんの直観・意思による選択を尊重しています。けれども、これをやれば必ず治るという治療法は、私の知る限りでは存在していません。
このような治療に対するビジョンは必要ですが、それが方法論でなく哲学であってもいいのではないでしょうか。というのも、哲学のない方法論をビジョンとして標榜しても、私が半生を費やして追い求めてきたホリスティック医学の実現は不可能だからです。
そういった考えを基軸に据えていますから、患者さんには治療の方法論を押し付けることなく、個々の患者さんのそのときどきの状態を鑑みながら、無数にある治療法のなかから患者さんに適した治療法を選択していくのです。たとえ、その治療法によって芳しくない結果が出たとしても、また違う治療法に切り替えていく。もちろん、すぐにいい結果を得ることに越したことはありませんが、その治療法がいい結果として表れなくても、その繰り返しの過程が得難い体験となり、生命エネルギーを高める糧になるはずです。

戦国大名の戦い方とがん治療

私は、病院にいるときは、毎日、入院中の患者さんと〝戦略会議〟と位置付けたミーティングを行っています。その内容は世間話から始まり、食事や気功、心の問題といったことも話し合っています。
「戦略」と似て非なる言葉に「戦術」があります。「戦術」は1つ1つの武器を中心にした作戦で、それを合わせたものが「戦略」です。ここで重要なのは、ただ闇雲に武器を集めただけでは「戦略」にならないということです。つまり、集めた武器をどのようにしたら有効に使いこなせるのか、という領域まで踏み込み、熟考を重ねてこそ「戦略」となり得るのです。
これをがん治療に置き換えると、西洋医学の枠を超えれば、多くの治療法が存在します。それを見境なく用いるのではなく、〝戦略〟を立てて有効な治療手段にしていくのです。
そのためには「統合」という手法が必要です。「統合」とは数学でいう積分の意味で、それぞれを一旦バラバラにして、再度、組み替えて新しい体系を構築させる作業のことです。
したがって、現在、私が入院中の患者さんと共に行っているのは、状態・価値観などに合わせ、多くの治療法から有効的な組み合わせを選択する〝戦略〟についての話し合いなのです。ですから、そのミーティングを〝戦略会議〟と呼んでいるのです。
戦略ということで言えば、織田信長や武田信玄といった戦国時代の大名は戦略家だったと思います。
織田軍は桶狭間の戦いで、2万5000人とも言われる大軍を引き連れて尾張に侵攻してきた今川義元に対し、10分の1ほどとも言われる軍勢で本陣を強襲し、総大将の義元を討ち取って潰走させました。この戦は、軍勢を集めるだけでは勝利できないことを教えてくれます。
武田軍は、中国の戦国時代の兵法書である『孫子』に出てくる戦略の「疾きこと風の如し、徐かなること林の如し、侵掠すること火の如し、動かざること山の如し」という「風林火山」をその旗印に記していました。つまり、信玄は、耐えるべきときはじっと耐え忍び、攻めるべきときには一気呵成に攻め立てるという臨機応変な戦い方をしていたのです。それは、がん治療においても同じで、耐えてばかりでは治らないし、いつも攻めていたら疲れてしまう、ということです。
がんを殲滅させるのか、あるいは、がんと共存するのか、といったことも含め、そのときどきの状況を冷静に判断し、自然治癒力に任せて耐えるときと、一気に治療して攻めるときの〝戦局〟の見極めが、がん治療の大きなポイントとなるに違いありません。

 (構成 関 朝之)

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008-009 帯津良一の「養生塾」-新病院.jpgホリスティックな医療を求めて、多くの患者さんが集まる帯津三敬病院(埼玉県川越市)


2012帯津先生.psd帯津 良
帯津三敬病院名誉院長
帯津三敬塾クリニック顧問