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抗腫瘍キノコ研究45年―伊藤均氏に訊く

ヒメマツタケの真実

取材協力●伊藤 均 菌類薬理研究所所長

統合医療とは、西洋医学、東洋医学、相補・補完代替医療を統合して、「良いものはなんでも取り入れよう」との考えに基づく医療のことである、と私は理解している。本誌のテーマである〝がん難民をつくらないために〟も、たとえ「標準治療」(手術・抗がん剤・放射線)の限界に達し「もう治療法はない」と宣告されたとしても、患者さんに「決してあきらめることはない」というメッセージを発信していきたい、という意味を込めて発刊の趣旨とさせていただいたものである。
また、抗がん剤などによる治療は副作用を伴うことが多く、QOL(生活の質)という観点からも統合医療は患者さん本位のやさしい医療であると言える。統合医療のなかでも健康食品(サプリメント)は重要なウエートを占めており、本誌でも「サプリメントの復権」と題し編集委員の先生方に鼎談をお願いし、サプリメントの重要性について語っていただいた(2009年10月号「特集」収載)。
今回、かつてがん患者さんが大きな期待を寄せていた〝キノコ類の健康食品〟につき、この研究に45年に亘り携わってこられた元三重大学医学部助教授で菌類薬理研究所所長の伊藤均氏に、一般読者の目線からいろいろと話をお伺いした。

アガリクスの誤解

――まず、伊藤先生はキノコの研究を始められて、40年以上になられるとお聞きしましたが……。

伊藤 はい、そのとおりです。1965年(昭和40年)から始めましたから今年で45年になりますが、自分でも驚きます。しかし、45年と言っても、振り返ってみればあっという間でした。

――それだけ熱心に研究に打ち込んでこられた、ということなのでしょう。先生は、その研究の成果を『免疫賦活食品 ヒメマツタケ』(エイチアンドアイ刊)という本により発表されていらっしゃいます。本書を読んでまず驚いたのが、「アガリクスとヒメマツタケは違うものである」というところなのですが、この点につきお伺いします。

伊藤 言われた通り、数年前にがん患者さんからも大きな期待を集めた「アガリクス」と呼ばれるキノコは、実際には存在しないのです。これは和名が〝ヒメマツタケ〟と言うキノコの学名が「アガリクス・ブラゼイ・ムリル」と呼ばれることから、「アガリクス」という固有のキノコであるように誤解されてきました。最近はこの誤解が解消されてきたと思っておりましたが、がん雑誌を発行されている吉田さんもご存じなかったとは、まだまだ解消されているとは言えませんね。
 そもそも「アガリクス」についての研究はほとんどなく、日本癌学会、日本菌学会などでの報告も1つもありません。もちろん、キノコ図鑑にも名前は記載されておらず、学会でその有用性が報告されたものはヒメマツタケに関するものです。

――そうしますと、「ヒメマツタケ」=「アガリクス」と誤解していたということですね。

伊藤 「アガリクス」というのは「ハラタケ属」という意味です。「ハラタケ属」には数百種類のキノコがありますが、「アガリクス」という呼び名はそれらの総称です。詳しくは図表にしてありますのでご覧ください(図表1)。ハラタケ属の下にAgaricus(アガリクス)と英表記があり、ハラタケ以下ツクリタケに至るまですべて頭にAgaricusと付いています。しかし、同じハラタケ属でアガリクス何々と呼ばれるそれぞれのキノコの含有成分には違いがあり、人体に有益な含有成分にも優劣があります。

厚生労働省の発表とアガリクス報道

――もう10年近くになるでしょうか。当時は、私もアガリクスと呼んでいたヒメマツタケに対するがん患者さんとその家族の期待は大きく、私の父も肺がんの放射線治療を受けていた際に、副作用の軽減のために飲んでいました。アガリクスのお陰かはわかりませんが、確かに副作用は軽微なものでした。
 ところが、平成18年2月に厚生労働省が「アガリクスを含む製品の安全性に関する食品安全委員会への食品健康影響評価の依頼について」と題した報告を行い、3製品のうちの1製品に注意喚起し、アガリクスが悪者扱いされ期待は一気にしぼんでしまいました。
 しかし、平成20年10月には厚生労働省がその内容を改訂し、他の製品については問題がないとしました。
 要するに、1つの製品には問題があったが他の製品はまったく問題がなかったわけですが、「悪い」との情報はマスコミが大々的に報道してアガリクスを悪者にし、「問題ない」との報道はほとんどされていません。これでは一般の方々の認識は、アガリクスが悪者のままになっていると思うのですが、この件について先生のお考えをお伺いしたいと思います。

伊藤 そういう報道がありましたね。後でお話ししますが、ヒメマツタケ(アガリクス・ブラゼイ)には多様な薬理作用があります。がん患者さんが、ヒメマツタケに期待したことは正しいと言えます。
 ところが、おっしゃる通りに厚生労働省が平成18年2月に発がん性を指摘しました。これをマスコミが報道し、吉田さんの言われるような結果となりました。
 しかし、その後の厚生労働省の発表にもある通り、それは単なる1製品の問題であったのです。先程、ヒメマツタケには薬理作用がある、つまり人体に有益なのですが、栽培方法(土壌など)やその保管方法、製造過程などに問題があれば、製品化した際に人体に有害なものができてしまいます。これはヒメマツタケに限らず、あらゆる食品・薬品にも言えます。良いものでも製造のやり方がおかしければ、悪いものができてしまいます。後で述べますが、製品選びには注意をしないといけません。

ヒメマツタケ(アガリクス・ブラゼイ)の薬理作用

――今述べられた、ヒメマツタケの薬理作用について詳しく教えてください。

伊藤 ヒメマツタケにはまず、免疫を活性化(反応が高まる)する多糖体をはじめ、ビタミン、ミネラル、不飽和脂肪酸、食物繊維など、人体の恒常性維持に役立つさまざまな成分が含まれています。そして、免疫力を向上させますので〝自然の抗生物質〟と言えます。たとえば、アレルギーやアトピーなどは免疫の異常亢進(通常より高くなり過ぎる)が原因ですが、それらに対しては免疫力を正常範囲に、つまり下げる働きがあるのです。このような免疫調整剤ともいうべき点が、薬理作用の大きな点と言えます。

――体に役立つものを多く含み、免疫力が下がっていれば上げてくれる、上がり過ぎていれば下げてくれる、ヒメマツタケはまさに理想的な健康食品ですね。

伊藤 私も研究を続けるうちに、ヒメマツタケの薬効に魅せられたとでも言いましょうか。それで気がつけば、45年経っていたのです。
ここでは詳しく述べませんが、高血圧やエイズ、インフルエンザウイルスにまで有効に作用するという研究発表もあります。

――わかりました。その辺りのことについて、もう少し詳しくお伺いしたいと思います。

(つづく)

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