活動レポート

患者が主人公の医療を展開する点滴療法のフロントランナー
「絶望から希望への反転」
―それは医師の仕事である

神奈川県鎌倉市は、横浜市の南西、藤沢市の東、逗子市の北西に位置し、南部が相模湾に面しています。この寺社が点在する古都は江戸時代後期から参詣客を集めるようになり、明治中期以降には保養・別荘地として、昭和以降には観光地として多くの人々が訪れる町となりました。
その鎌倉のシンボリックな史跡である鶴岡八幡宮のそばに「美」「癒し」「健康」を基本コンセプトに据えた完全自由診療型医療機関「スピックサロン・メディカルクリニック」はあります。今回は、同クリニックの総院長であり、最新のエビデンスに基づいた点滴療法を提供するグループ「点滴療法研究会」の会長としても知られる柳澤厚生医師に、点滴療法の可能性・点滴療法研究会・医師としての信念などについて訊きました。

アメリカへ留学を果たし、研究と論文の執筆に情熱を傾ける

1.psd柳澤厚生(やなぎさわ・あつお) 1951年長野県生まれ。1976年杏林大学医学部卒業。1987年米国ジェファーソン大学医学部留学。杏林大学医学部内科助教授・杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2004年統合代替医療・抗加齢医学・東洋医学を駆使した診療をするスピックサロン・メディカルクリニックの総院長に就任。点滴療法研究会会長。ニューヨーク科学アカデミー正会員。米国先端療法会議正会員。アメリカ心臓病学会特別正会員。米国先端医療会議認定キレーション療法専門医。国際統合医学会理事(2009年度会頭)。日本腫瘍学会理事。著書に『超高濃度ビタミンC点滴療法ハンドブック』『ビタミンCががん細胞を殺す』など──まず、柳澤先生が医師となった理由をお聞かせください。
柳澤 高校3年生のとき、有名私立大学の理工学部への推薦入学が決まっていたのですが、父親から「杏林大学に医学部が新設されたのだけれど、家族に1人くらい医者がいてもいいのではないか。受験してみたらどうだろう」という話をされました。幼少の頃には野口英世(黄熱病や梅毒などの研究で知られる細菌学者)に憧れていたこともあり、それでは受験してみようということになり、急遽、1月・2月・3月と猛勉強をして、杏林大学医学部に合格したというわけです。
──先生は米国のジェファーソン大学医学部に留学されていますが……。
柳澤 大学を卒業して杏林大学医学部の内科に入局しました。その後、内科が3つに分かれ、そのなかの1つである成人病・循環器・血液内科に所属しました。そこで、恩師について循環器の勉強をして、ペースメーカーや心電図に関する研究の論文を英文で書いたりしていたのです。ただ、いくら自分のアイディアで論文を書いて学会に発表しても、同じ研究分野の教授を越えることはできませんでした。それが悔しくて、教授が携わったことがない領域の医療を学びたくなり、留学へと気持ちが傾いていったのです。そして、教授の尽力もあり、ジェファーソン大学に留学することができました。
 ジェファーソン大学の教授からは「君は、ここにいる間、たくさんの論文を書いたり、多くの研究方法を体得したりして、日本に帰国したときに名前が知られる医師になっていることが必要だよ」と言われ、2年間で16の論文を英語で書き上げました。帰国後は大学内に自分の研究室を持ち、自分の名前で仕事をするようになったのです。
 その後、疫学や核医学(放射線学)などに携わりながら論文も書いていました。最終的に保健学部の救急救命学科の教授として医療コミュニケーションに携わるようになり、診療・研究・スタッフの指導などを行うようになったのです。

点滴療法の習得を望む「日本の医師」の思いに応えて点滴療法研究会を発足

──先生が超高濃度ビタミンC点滴療法(以下=ビタミンC点滴療法)と出会った経緯を教えてください。
柳澤 2006年9月、アメリカ人の悪性リンパ腫に罹患した患者さんが、当クリニックに来院されて「抗がん剤治療をしたくないので、ビタミンC点滴療法をしてほしい」と切願されたのです。そこで私は、電子メールでアメリカ人の医師にレシピを教わり、その患者さんにビタミンC点滴療法を行いました。その後、この「最先端がん治療」について必死に学びました。そして、2007年5月には、米国カンザス州ウィチタ市の国際人間機能改善センターにも研修に行っています。同センターは1975年にドクター・リオルダンによって創設されたビタミンC点滴療法の〝本拠地〟で、そこの臨床現場をこの目で見て、ビタミンC点滴療法を勉強してきました。
──こうしたビタミンC点滴療法を含め、主な点滴療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
柳澤 まず、美肌効果・健康維持はもちろんのこと、がんの治療法として注目を集めているビタミンC点滴療法が挙げられます。ビタミンCは、それ自体が酸化されることで強力な抗酸化作用を発揮しますが、その際に大量の過酸化水素が発生します。血中に投与されたとき、正常な細胞は過酸化水素を中和できますが、がん細胞はこれを中和できず死んでしまうのです。つまり、高濃度のビタミンCはがん細胞にとって抗がん剤でもあるわけです。
 しかも、通常の抗がん剤と異なり、副作用がないのが特長です。がん細胞に対しての選択的攻撃力が高く、現在、手術後の再発防止、新たな補助療法として、米国・国立癌研究所や米国・国立衛生研究所において研究が進められている「最先端のがん治療法」の1つだと言えるでしょう。
 キレーション点滴療法は、細胞の老化防止・動脈硬化の改善・脳梗塞の予防・心臓疾患などさまざまな病気に有効な療法です。現在、この治療はアメリカ国立健康研究所代替医療部門とアメリカ先端医療会議が心筋梗塞・狭心症の治療として研究を進めています。
 グルタチオン点滴療法は、さまざまな有害物質から脳を守る療法で、パーキンソン病にも有効とされています。そして、統合医療・自然療法を実践する医師たちの〝標準治療〟となっています。
 マイヤーズ・カクテル点滴療法は、気管支喘息・偏頭痛発作・慢性疲労症候群・線維筋痛症などさまざまな疾病に有効な療法です。米国自然療法医の定番で、人間の体内に存在する栄養素であるビタミンB1・B2・B3・B5・B6・B12、ビタミンC、グルタチオン、マグネシウムなどの点滴製剤を用います。
──そのような「最新の点滴療法」を提供する医師が集う点滴療法研究会の発足の経緯について教えてください。
柳澤 もともと米国に留学していた時分からキレーション点滴療法のことは知っていました。ですから、日本国内ではそれほど行われていない草創期から、この療法を取り入れていました。
 その後、マイヤーズ・カクテル点滴療法やグルタチオン点滴療法も診療メニューに加えましたが、おそらく国内で初めて本格的に導入したのは当クリニックだと思います。
 そんななか、今から約3年前にマイヤーズ・カクテル点滴療法のセミナーを都内で開催しました。すると、3時間ほどのセミナーにもかかわらず、北海道から沖縄まで70~80人ほどの方が参加してくれたのです。
 マイヤーズ・カクテル点滴療法に関する知識を吸収したい先生が予想以上に多いことを知り、それだったらキレーション点滴療法やグルタチオン療法、ビタミンC点滴療法などを含めた点滴療法の情報交換の場をつくろうというのが点滴療法研究会の始まりで、現時点(2010年5月)で380名の会員がいます。

患者の緊張を解放し、
希望を抱いて治療に臨んでもらう

4.psd医療機関然としていない空間で、患者は柳澤総院長に思いのたけを話す3.psdエレベーターを降りると、和を基調としたクリニックの受付が緊張感を解き放ってくれる──スピックサロン・メディカルクリニックの「開設の経緯」とコンセプトを教えてください。
柳澤 ヘアサロンやエステサロンなどを日本全国に展開しているスピックグループの芝田乃丞会長が私の患者さんだったのです。その芝田会長と「アンチエイジングに特化した統合医療を行うクリニックがあるといいですね」と話し合っているうちに、今から6年前にそのようなクリニックを立ち上げる構想が出てきました。そして、スピックグループの本社がある鎌倉ならば地盤もしっかりしているので、2004年に当院を開院したのです。
──スピックサロン・メディカルクリニックは、ある意味で医療機関らしくない、落ち着ける空間ですね。
柳澤 はい。普通の医療機関の診察室などで見られる白いカーテンや治療機器などがあると、患者さんは緊張してしまいます。ですから、当クリニックの診察室には、そのようなものをあえて置いていません。ゆったりと時間をかけ、患者さんから話を聞きだすためには落ち着いた雰囲気が不可欠ですから。強いて言えば、ドクターのプライベートな空間に招かれてお茶を飲みながら話ができるような小空間づくりを心がけています。
──「3時間待ちの3分診療」と評される大学病院の診療とは対極に位置していますね?
柳澤 そうです。患者さんとゆったりと話し合えなければ、その健康状態を正確に把握することなどできません。ですから、当クリニックでは、初診のときに患者さんに伝えるのは「診察時間は十分にとっていますから、あなた自身が、こうありたい、このようにしたいという希望を話してください」ということです。その際、私のほうから「こうしなさい、ああしなさい」という指示めいたことは絶対に言いません。まずは患者さんに胸の内にあるものをすべて聞かせていただき、その内容に即して具体的なアドバイスをしたり、患者さんに実行していただきたいライフスタイルなどを話し合いながら決めていったりしています。
5.psd日常生活から離れた「隠れ家的な空間」で点滴療法は行われる7.psdクリニックの中には香の薫りが漂い、茶室をイメージしたほの暗く静謐な小空間が点在している──まさに患者さんの視座に立った診察スタイルですね?
柳澤 やはり、医療の主人公は患者さんですから……。たとえば、余命3カ月と主治医から宣告された方には「諦めるのではなく、寿命をまっとうできるかもしれないチャンスに賭けてみませんか?」とまで言い切ります。というのも、主治医から余命宣告を受けて当クリニックを受診した患者さんのなかには、今でも元気に暮らしている方がたくさんいらっしゃるからです。そのような話をすれば、絶望の状態で来院した患者さんの表情は、希望を帯びたものに変わっていきます。私は患者さんに希望を持たせることはいいことだと思っています。その意味で医療コミュニケーションの勉強をしてきたことも1つの武器になっています。

栄養・免疫・ストレスから人生観まで、患者その人を丸ごと診ていく

──先生の医師としての信念を教えてください。
柳澤 100%患者さんの味方になることです。1人のがん患者さんが健康になる方法が10通りあるとすると、健康保険で認められている方法は、そのうちの2通りか3通りです。残りの7~8通りは健康保険では認められていません。
 健康保険の制度はとても優れたものですが、保険診療の医療機関では、健康保険で適用されている治療法しか患者さんに提示しません。ある意味で、保険は医療とは違うレベルで存在しているのではないでしょうか。
 ですから、自分の知識・経験、文献、エビデンスなどを鑑みて可能性がある治療法を、その患者さんにすべて提示していくのが真の医療だと思います。もちろん、そのなかで、健康保険が適用される治療・されない治療を説明し、これは健康保険がきくから、健康保険の範囲で治療を行っている医療機関で受けてみてはどうでしょうか、ということを提案させていただいています。そのうえで、健康保険では認められていない治療を加えていくのが当クリニックの役割だと感じています。
 また、がんだけを診るのではなく、その人全体を診ることが大事です。そのためには栄養のバランス・免疫のバランス・ストレスのバランス・人生観のバランスまでを含めて患者さんを診ていかなくてはいけません。
10.psd点滴療法研究会では、点滴療法に関心を持つ医師に向けセミナーを開催している──今後のがん治療における展望、点滴療法研究会の方向性をお聞かせください。
柳澤 もちろん、手術、放射線療法、化学療法も認めていますが、少なくともオートマチックに治療を進めるべきものではないと考えています。将来は、分子標的薬などに代表される体にやさしい治療、QOL(生活の質)を重視した治療法が主体になってくると思います。
 点滴療法研究会では、QOLの研究を行うことになりました。この研究では外部の先生に倫理委員会の委員長を務めてもらい、患者さんの同意のもとで、7~8分で書き終えることができる「ビタミンC点滴療法の経過・QOLのアンケート調査」を行います。そのアンケート調査は会員の133施設にお願いし、患者さんの登録期間2カ月間、経過観察期間1カ月の3カ月間で行うのです。
 その結果を論文にまとめ、米国カンザス州の国際人間機能改善センターカンザスで開催される「第2回 ビタミンC点滴療法によるがん治療国際シンポジウム」で発表しようと考えています。
──先生と同じようなスタンスで、がん治療に取り組んでいる後進の方々に対してメッセージをください。
柳澤 私は、がんの患者さんには「この人はどうすればいちばん幸せになるのだろう」ということを念頭に置いて治療に取り組んでいます。
 たとえば、末期の患者さんが当クリニックに初めて来たとき、ビタミンC点滴療法で治ると思っていなくても、私は目の前の患者さんが治るかもしれない、きっと治る、と思って向き合っています。患者さんを悲観的な気持ちにさせるのではなく、患者さんに希望を持ってもらうことが、私たち医師の仕事なのではないでしょうか。 そのためにも、自信や誇りを持って勧められる治療法をすべきです。
──最後に、がん患者さんにメッセージをください。
柳澤 諦めないでほしい、治療法はたくさんあるということです。現に、余命何カ月と告げられても元気で暮らしている人がいます。人間の寿命は、人間が判断できるものではないのです。