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神奈川県立がんセンター臨床研究所講演会【前篇】

2015年4月15日(水)、神奈川県旭区民文化センター「サンハート」において、「神奈川県立がんセンター臨床研究所 第28回県民のための公開講座」が催された。今回のテーマは「がんの個性に挑む ~テーラーメイド治療と漢方療法・ワクチン療法~」で、4つの講演と質疑応答が行われた。その模様を2回に分けてレポートする。

ひとの個性・がんの個性を把握することで成り立つテーラーメイド治療

神奈川がんセンター㈰土屋先生.JPG開会の挨拶を述べ、講演会のテーマの趣旨を説明した土屋了介氏この日、最初に土屋了介氏(神奈川県立病院機構理事長・神奈川県立がんセンター総長)が登壇し、開会の挨拶を述べ、講演会のテーマの趣旨を説明した。
続いて、本村茂樹氏(神奈川県立がんセンター病院長)が「新しいがんセンターのご紹介」と題して話を繰り広げた。
その後、1つ目の講演が行われた。演者は宮城洋平氏(神奈川県立がんセンター臨床研究所・がん分子病態学部部長)で、演題は「敵を知り己を知る:がん治療のカギを握る2つの個性」。その講演の内容は、「がん治療のカギを握る2つの個性について」と「がんのテーラーメイド治療について」の2つであった。
がんの2つの個性とは、「ひとの個性」と「がんの個性」であるという。
「ひとの個性の違いを生む原因は、取りも直さず、ひとの体の設計図に違いがあると考えられています。ひとの体の設計図は遺伝情報と言い換えることができます。これは、お母さんの卵子から設計図を1枚、お父さんの精子から設計図を1枚持ち寄ることがわかっています。この設計図1枚1枚それぞれが、ひとの体をつくり上げる内容を含んでいますが、ある場面ではお母さんからの設計図を参考にして体をつくり、ある場面ではお父さんの設計図を参考にして体をつくることが決められています。万が一、どちらかが破けてしまった場合にも、2枚あればどちらかを参照することができるわけです。このようにセーフティーネットを張りつつひとの体ができているのがわかっています。
神奈川がんセンター㈪本村先生.JPG新しくなった神奈川県立がんセンターについて話した本村茂樹氏ひとの細胞1つ1つに核という場所があり、その中には染色体が詰まっています。それがデオキシリボ核酸(DNA)で、設計図の本体です。この設計図はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つの文字で書かれているのが知られています。
この1つの情報を1ゲノムと呼びます。1ゲノムはA・G・C・T30億文字くらいで書かれていることがわかっています。この1ゲノムの中には、2万から2万5000個の、遺伝子と呼ばれるユニットを持っています。遺伝子は、いちばん簡単なものでは、タンパク質をつくる指令が書き込まれていて、ひとの体をつくり上げていることがわかっています」
ゲノム・DNA・遺伝情報の話に続き、ひとの個性の源であるゲノムの多様性(多型)の話に移った。そして、話は抗がん剤の副作用の差異が生じることなどに移行した。
がんの個性に関する話では、「がんを引き起こす環境要因」について述べられた。
「環境要因が引き起こす、つまり生まれた後で起こる設計図の変化ががんの原因だと考えられています。環境要因が引き起こした設計図の異常はほとんど修復されるのですが、なかには修復されないものもあり、それが積み重なることではじめて、正常な細胞ががん細胞に変わることがわかっています。
最近の研究では、たとえば同じ胃がんでもAさんにできた胃がんとBさんにできた胃がんでは設計図のおかしくなり方が違うことがわかってきていますし、たとえば1人の患者さんにできた膵がんを細かく切って調べると、同じ膵がんの塊の中でも場所によって、環境要因によってつくられた傷(遺伝子の異常)が違ってきているのもわかってきています」
神奈川がんセンター㈫宮城先生.JPGがんのテーラーメイド医療をわかりやすく解説した宮城洋平氏このように、がんの個性を知ると、①がんが大きくなる早さが予測できる、②がんが転移をする能力が予想できる、③予後が予測できる、④効果が期待できる(できない)薬がわかる……といったことが期待できるようになるという。
講演の後半では、ひとの個性とがんの個性をベースにした「がんのテーラーメイド治療」に関してレクチャーされた。
「がんのテーラーメイド治療を別の言葉で表現しますと、オーダーメイド治療や個別化治療という言い方をされます。がんのテーラーメイド治療で測るべき寸法が、ひとの個性であり、がんの個性なのです」
がんのテーラーメイド治療は、ひとの個性を知ることにより、効果的ながん予防が可能になる。たとえば、一般の1・2倍大腸がんにかかりやすい、1・6倍大腸がんにかかりやすいというのがわかっているケースでは、大腸がんになりやすい生活習慣を改善することで効果的にその予防ができる。また、そのようなリスクがある人は、こまめにスクリーニングを受けたり、しっかりとがん検診を受けたりすることで、早期発見・早期治療というアドバンテージを得ることができる。不幸にしてがんが発症してしまった場合でも、薬剤の副作用の強さなどを勘案して投与量を決めることが可能になるという。

「不老不死」ではなく「不老長寿」が大事

神奈川がんセンター㈬林先生.JPG漢方についてわかりやすくレクチャーした林明宗氏2つ目の講演は、林明宗氏(神奈川県立がんセンター漢方サポートセンター東洋医学科部長)による「個体症候で構築される漢方治療体系 ─症例からみる漢方の応用─」であった。
林氏は、講演の冒頭で神奈川県立がんセンターの漢方サポートセンターについて説明した。漢方サポートセンターの機能は次の5つであるという。
①漢方診療機能(保険診療)。
②栄養サポート機能。
③相談・紹介機能。
④東洋医学への理解の促進。
⑤他診療機関からの医師研修の受け入れ。
続いて、林氏は「漢方医学とは何か」についてレクチャーした。
「今、私たちがやっている漢方は、明治時代に1度、絶滅に近い状況になっていますので、本当の意味での漢方ではありません。ただし、最先端の医学を研修したドクターが漢方を使えるのは世界で日本だけなので、その点では昔の医療と、今の医療を一緒に使えるという非常に恵まれた環境にあるのは間違いありません」
また、講演のなかには「昔の人は発がんをどう考えてきたのか」というテーマも盛り込まれていた。
「漢方では気・血・水と言いますが、気は生体エネルギー、血は血液、水は血液以外の水分です。それらの循環を大事にするのが漢方ですが、それが不足したことによるものが体力の低下、現代医学でいうところの免疫力の低下ということになります。それが起きやすい体質があります。そのようなことが合わさって、気が澱んだり、血が澱んだり、水が滞ったりして固形がんが発症するという非常に原始的な考え方ですが、免疫の考えでいくと当てはまる言葉が返ってきます。昔の人は〝ブラックボックス〟の中を外側から見て、それなりに考えてきたのです。
中医学的な考え方では、気の停滞や冷えが合わさってくると、がん幹細胞が動き出すというような考え方を持っています。振り返ってみると、私たちの生活は欧米スタイルになってしまっています。冬場に冷たいものを食べて喜んでいるのは日本人くらいです。
がんは全身の免疫力の低下に起因するということで、全身の免疫力を高める治療・免疫賦活剤が登場してきたのですが、それらが期待した効果があまり出ないということで、保険の適応からかなり外されてしまいました。それは、個々人の免疫力低下に至った原因が多様であったというのがいちばんの理由です」
その後、林氏は、気虚と補剤(参耆剤)に話題を移行。補気剤・補腎剤などについて説明した。加えて、末梢神経障害に対する漢方薬についてレクチャーした。そのなかで、牛車腎気丸が詳しく紹介された。
講演の後半では、放射線性皮膚炎や分子標的薬による皮膚障害などもふれられた。そして、最後に、次のような言葉で林氏の講演は結ばれた。
「不老不死というのはなく、不老長寿が大事です。できるだけいい状態で長生きしていただきたいと思います。そのためには、治療も大事ですが、苦しい思いをしてまで治療をする必要はないので、その部分をできるだけ漢方でサポートさせていただきます」

「神奈川県立がんセンター臨床研究所講演会」は、次号(後編)に続きます。

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