活動レポート

がんに対する温熱療法―森吉臣医師に訊く
〜基礎から疑問を徹底解明〜

古来より「温熱」は治療に利用

――今回は温熱療法を特集しますが、この療法の第一人者である森先生に基礎的なことから疑問をお伺いしたいと思います。
ます、基本的なことからお聞きしますが、ずばり「温熱療法」とはどのようなものですか。

 温熱療法とは、文字どおり身体を温めて病気を治療する治療法の総称です。わが国では、古くから行われており、湯治は昔から浸透しています。
また、遠赤外線療法やホットパックなどは、神経痛やリウマチ治療に盛んに利用されています。
がん治療では、腫瘍細胞が正常細胞より熱に弱い性質に着目して行われる治療法です。
また、高濃度ビタミンC点滴療法の効果を上げたり、患者さんの免疫を上げたりすることができます。
さらに、自律神経の調整ができるのでQOL(生活の質)も向上し、痛みの軽減に対しても効果を得られます。

――私も以前、整形外科でホットパックの治療を受けたことがあります。温泉も好きですし、意外と身近なものなのですね。
そう言えば、がんの患者さんは低体温の方が多いとお聞きしたことがありますが、やはり体温は上げたほうがよいのですか。

体温が1℃下がると、免疫力が30%落ちる

 体温が1℃下がると、免疫力が30%落ちると言われています。ですから、がん患者さんに限らず体温を上げて免疫を活発にすることが大切です。体温が上がると血流も良くなり、酸素の供給も増えるので、がん治療には重要です。
吉田さんが言われたとおり、がん患者さんは低体温の方が多いので、体を温めることは大事です。

腫瘍細胞は正常細胞より熱に弱いヒートショックプロテイン効果

――1月に沖縄に取材に行った際、家を出たときは気温が3℃で、沖縄に着いたら20℃でした。この気温差が、沖縄に長寿をもたらしているのかなと思いました。体温が1℃下がれば免疫力が30%下がるのですから、寒さで体温が下がれば免疫力が落ちてしまいます。
ところで、どうして腫瘍細胞は正常細胞より熱に弱いのですか。

 腫瘍細胞が熱に弱いことは、過去に高熱の感染症などで苦しんだ人のがんが縮小したという事実が複数報告されたことから、研究が始まりました。
42℃を超すと腫瘍細胞は壊死を起こして死ぬことがわかっています。理由は、加熱によって細胞内のタンパク質に凝固が始まるからです。体外から加熱した場合、腫瘍細胞のかたまりのがん組織の温度はどんどん上がりますが、正常細胞の集まりの組織は、あまり上がりません。その理由は、正常の組織中ではある程度温度が上がると血管が拡がって熱を運び出すシステムが働いて熱を放出します。がん組織では、血管が未熟なためにこのシステムがなく熱がこもってしまいます。また、がん組織は酸性度が強いことも影響しています。
また、ヒートショックプロテイン(HSP:熱ショックタンパク質)といって、熱に対して反応し増加するタンパク質があります。細胞内の多種類のタンパク質の合成、修復などを管理しているタンパク質で、細胞の生命活動にきわめて重要な役割を担っています(図1)。
図1.jpg図1 HSP(ヒートショックプロテイン)は傷害されたタンパク質を修復する
温熱療法によって、ヒートショックプロテインが細胞内に増加し、免疫を担うリンパ球・NK細胞・樹状細胞は活性化するだけでなく数の増加が起こり、免疫機能が強化されます。
一方、腫瘍細胞にヒートショックプロテインが増加すると、腫瘍細胞の特徴が細胞表面に現れ目印となり、リンパ球ががん細胞を見つけやすくなります。ですから、今まで素通りしていたリンパ球が、目印を見つけがんを攻撃する環境をつくります。

2つの機器のそれぞれの特長

――私は今までクリニックレベルの多くの医療施設を取材してきましたが、がんに対する温熱療法に使われる機器は、サーモトロンとインディバの2つでした。サーモトロンを設置している施設はわずかでしたが、この2つの機器についてご説明ください。

 サーモトロン(RF-8)を導入しているクリニックもあるようですが、この機器は高額で広い設置スペースを必要とするので、クリニックなどの小規模施設では、インディバを導入されている施設が多いと思います。
インディバは、困難とされていた身体の深部や局部加温を可能にしましたので(その特長についてはを参照)、私のクリニックでもインディバを使用しています。

表1 「インディバ ⓇCRet System Ⓡ」の特徴
1.周波数(高周波)
0.4MHz.~0.5MHz.のRFの中波周波数帯の特殊な高周波レベルを使用することにより、体表でのホットスポットを抑制できる。よって、過剰発熱防止装置「ボーラス」が不要となり、 施療部位の制限がなくなった。
2.透過深度と容量性電移法
誘電加温型ではあるが、2つの大きく異なるサイズの電極を使用し「透過深度」を高め、容量の多いエネルギー透過(容量性電移法:CET)に成功。近年、抵抗性電移法:RETⓇを開発。これによって、困難とされていた深部・局部加温 (ジュール熱)を容易に可能にした。
3.エレクトロードの形状と幅広い応用
人体の各部位に合った円形状の各種エレクトロード、また、さまざまな形状の異なるエレクトロード(頭蓋、眼、膣、肛門、手足専用)も開発され、幅広い部位での使用が可能になった。「ボーラス」が不要になったことも大きな要因。
4.機器のコンパクト化
【18.0cm(高さ)×40.0cm(幅)×37.0cm(奥行き)】施療の簡素化(病室での治療も可能)

高温加温療法とマイルド加温療法

――先ほどのお話では、腫瘍細胞への直接的壊死効果は42℃以上ということでしたが、それよりわずかに低い41℃以下ではどうなりますか。
また、どのくらいの間隔、つまり週に何回くらい治療を受けたらよいのですか。さらに、1回の治療時間をお聞かせください。

図3.jpg図2 マイルド温熱療法により免疫強化と腫瘍細胞の抗原性増強 42℃以上を高温加温療法と呼び、腫瘍細胞を直接死滅させますが、39~41℃ですと免疫活性化が期待でき、これをマイルド加温療法と呼びます(図2)。すなわち、樹状細胞やNK細胞などの免疫細胞が活性化し、脳内麻薬と言われるエンドルフィンも活性化します。ですから、この温度帯でも治療効果を得ることができます。
治療間隔ですが、腫瘍細胞が熱に対して抵抗性ができてしまうので、治療後は3~4日の間隔をあけなければなりません。ですから、週1~2回をお勧めしています。1回の治療時間は、30分から1時間くらいです。

――高温加温療法とマイルド加温療法、どちらも効果があるということですが、どんながんにも効果があるのですか。

 先ほど申しましたとおり、タンパク凝固であり、免疫の強化ですからすべてのがんに有効です。また、がん予防にも効果があると言えます。

――では、がん以外の病気にも効果はありますか。

 やはり免疫を上げますので、免疫力の下がっている方には効果があります。
たとえば、脊椎すべり症の患者さんが、手術の際にボルトの間に菌が入って炎症を起こしてしまい、点滴で抗生剤を入れて治療していたのですが、なかなか治りませんでした。そして、私のところへいらして、高濃度ビタミンC点滴とマイルド加温療法の併用治療を1カ月行って、感染も炎症も治まり再手術せずにすんだという経験があります。

温熱療法に副作用はまずない

――再手術を免れたというのは、素晴らしい効果でしたね。しかし、温熱療法に何か副作用はないのですか。

図4.jpg図3 「INDIBA ⓇCRet System Ⓡ」の原理図 局所に火傷をするという心配はありますが、通常はそうなる前に患者さんが「熱い」とか「痛い」と訴えますので、まずないと言えます。
サーモトロンはボーラスという冷却装置を身体との間に挟みますし、インディバは熱効率がすごく良いので身体の表面はそんなに熱くなりません(図3)。
図5.jpg「INDIBA ⓇCRet System Ⓡ」背部30分

――副作用も軽微だとなると、試してみたくなる読者も多いと思いますが、費用はいくらくらいかかりますか。保険は適用されるのですか。

 インディバは保険適用ではありませんので1回8000円から1万円です。サーモトロンは回数に制限はありますが、保険が適用されます。

他の療法との相乗効果が期待できる

――他の療法との相性はいかがですか。

 抗がん剤の効果が1・5倍くらい上がるという論文も多く出ています。また、私が行った実験では、高濃度ビタミンC点滴療法の効果が、温熱療法と併用したことにより、同じく1・5倍上がったという結果が出ています。ですから、高濃度ビタミンC点滴療法の効果をより高めます。高濃度ビタミンC点滴に効果が出にくいがん患者さんの場合、つまり感受性が低いがんでも温熱療法を併用すると効果を得ることができます。
放射線療法でも、放射線で細胞分裂期のがんを殺し、温熱療法で合成期のがんを殺すという、違うステージのがんを殺せるので、とても相性が良いです。
また、患者さんの免疫細胞を体外で培養して増やしてから、体内に戻す各種の免疫療法が現在普及してきましたが、その効果を高めることもできます。
正常細胞には影響を与えず、腫瘍細胞だけにダメージを与える

――いろいろと温熱療法につきお話しくださり、ありがとうございました。この療法に大きな期待を持ちました。

 がん治療で重要なことは、正常細胞と腫瘍細胞をきっちりと分けて治療するということが大切です。抗がん剤の場合は、正常細胞と腫瘍細胞の区別なく攻撃してしまうので、副作用に悩まされ、免疫力も落ちます。ですから、運よく目的の腫瘍が消えたとしても、免疫力を落としてしまい、がんの再発や他の疾患を招く恐れがあります。
手術は、腫瘍細胞だけを取り去り、正常細胞は温存されます。しかし、最近は腹腔鏡手術やロボット手術の登場で侵襲性(体にマイナスなこと)は減ってきたとはいえ、ゼロではありません。つまりは、正常細胞にも影響が出てしまうのです。ところが、温熱療法は正常細胞には影響を与えず、腫瘍細胞だけにダメージを与えます。さらに免疫力を高めたり、自律神経の調整などの効果も期待できますので、理想的ながん治療と言えます。
温熱療法単独でがん治療を行うのは難しいですが、先ほど申し上げた他の療法との相乗効果で〝がんに克つ〟ことになると思います。

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森先生カラー.jpgがんに対する温熱療法ー森吉臣医師に訊く

(2014年6月72号掲載)

森 吉臣 

医療法人社団健若会 赤坂腫瘍内科クリニック理事長・総院長
血液クレンジング普及会会長