一般医療と予防医療、老人医療を融合させた内容でこれからの時代にも対応できる
——まず、先生のご経歴からお話しください。
大田 昭和44年に新潟大学医学部を卒業し、同大学第1外科に入局。昭和53年に第1外科助手となり、昭和56年に山形大学医学部第2外科に講師として赴任し、昭和61年に助教授になりました。その後、2つの民間総合病院でそれぞれの副院長・院長を経験して、平成7年に天童温泉篠田病院の副院長となり、現在は院長をしております。
——貴院の概要を簡単にお話しください。
大田 医師、看護師、事務などを含めて、総勢約120名の態勢で運営しています。一般病棟60床と人間ドック4床の他に認知症治療病棟が60床あり、一般医療と予防医療、老人医療を融合させた内容で、これからの時代にも対応できるように努めています。
また、病院名にもありますように、名湯・天童温泉の源泉を使用した温泉浴室があることも大きな特長の1つで、泉質はナトリウム・カルシウム・硫酸塩温泉です。源湯かけ流しの温泉によって患者さんのQOL(生活の質)の向上や、メンタルケアができればと考えています。
——温泉があるのはすごい特長ですね。
次に病院の理念をお聞かせください。
大田 理念とは別ですが、当院には「仁風慈雨」という初代理事長の篠田甚吉から伝わる精神があります。温熱療法は、まさにその慈雨にあたるものと考えております。慈しみ、癒され、そして芽吹く。これが当院の患者さんに接する基本姿勢であります。
後でお話ししますが、がんの温熱治療機器「アスクーフ8」の導入が地域医療の慈雨となり、1人でも多くの患者さんがこの慈雨に浴することができればと願っています。
エビデンスも確かだったことから高周波式ハイパーサーミア機器を導入しました
——それではがん治療についてお伺いしますが、今、がんの温熱治療機器を導入されたとのお話しもありましたが、その辺りのいきさつも含めてお話しください。
大田 当院では一般的に標準治療と呼ばれている3大療法の内で、手術と抗がん剤治療を行っていて、放射線治療は行っていません。転移がなく患者さんの体力がよほど弱っていない限り手術治療をして、その後の状態により抗がん剤治療を行います。
転移している患者さんは、基本的には手術ができないので、抗がん剤だけになってしまいます。それもできなくなると打つ手がなくなってしまうので、何とかならないかと日々考えていました。
そんなとき、昨年(2018年)の外科学会のランチョンセミナーで温熱療法が取り上げられており、今まで外科学会ではなかった演題だったので、関心を持ち参加しました。セミナーの演者は、浅尾高行群馬大学教授でしたが、拝聴し探していた新しい武器がここにあると強く感動しました。しかも、調べてみたところ保険適応であり、エビデンス(科学的根拠)も確かだったことから高周波式ハイパーサーミア機器の「アスクーフ8」を導入することにしました。
がん患部の温度を上昇させて、がんを攻撃します
——標準治療は患者さんに負担のかかることが多いですが、ハイパーサーミアは患者さんに優しい療法ですので、多くの病院で取り入れて欲しいと願っていましたが、東北地区で早期に取り入れられたことに敬意を表します。
大田 先ほど、転移があれば原則的に手術ができないとお話ししましたが、高齢者の方でがんが見つかっても手術ができないケースや、腎疾患や肺や心臓に合併症がある患者さんのなかには手術を希望されてもできない場合があります。そのような場合、当院で残る選択肢は抗がん剤治療だけになってしまいますが、ハイパーサーミアを取り入れたことで、治療手段を増やすことができました。
がんが正常細胞より熱に弱いことはよく知られていて、この性質を利用した療法が温熱療法=ハイパーサーミアです。当院で導入しましたハイパーサーミア機器は「アスクーフ8」で、同じ山形県内でつくられている機器で医療承認も取得していますので保険診療が可能です。
実際の治療としては、この「アスクーフ8」という大型の機器で、ラジオ波とも呼ばれている高周波電流をがん組織に非侵襲的にあてて、先ほどお話ししたがんが正常細胞より熱に弱いという性質を利用し、正常細胞が耐えられる範囲までがん患部の温度を上昇させてがんを攻撃します。
また、特長としてがん治療につきものの副作用はほとんどと言ってよいほどなく、体を温めることによる免疫活性も報告されています。たとえば、切除不能乳がんにハイパーサーミアを行ったところ加温されていない腋の下のリンパ節転移が消失した例もあり、これは温熱療法で産生されたヒートショックプロテインが抗腫瘍免疫を誘導し活性化することによるものと考えられます。
——体を上下から挟む形での高周波電流による照射ですが、体表面からの照射で深部にがんがある場合でも熱は届きますか。
大田 通常は深部体温を確実に昇温させることは難しいのですが、この「アスクーフ8」は研究を重ねた成果として、電磁波により誘電過熱する方式として開発されたものなので深部加温も可能となりました。
ただし、残念ながら脳と眼球のがんには適用できません。
ハイパーサーミア療法との併用で患者さんのQOLも高めます
——手術や抗がん剤との併用も可能ですか。
大田 併用も可能と言うより、基本的には単独ではなく併用で治療します。もちろんどうしても単独で治療をすることを望まれる方がいらっしゃればその患者さんのご事情を考慮しますが、単独より併用して治療を受けたほうが相乗効果が期待できるのです。
たとえば抗がん剤治療は、ハイパーサーミア療法と併用すると抗がん剤の量を減らすことも可能になり、患者さんの副作用の軽減に大きく貢献しQOL(生活の質)も高めます。
——症例がありましたらお聞かせください。
大田 2019年2月から始めたばかりですので症例は少ないのですが、4例のみ紹介します。
1例目は、食道がん再発の患者さんですが、1回目のハイパーサーミアで食事のときの痞え感がなくなり、その後はまったく問題なく食事ができるようになり、8回目終了時には腫瘍は3分の1以下に縮小していました。
2例目は切除不能進行乳がんで、8回目終了時には腫瘤は若干の縮小でしたが、拇指頭大の腋下リンパ節転移は消えていました。
3例目は大腸がんの骨盤腔内転移の症例ですが、8回目終了時には腫瘍マーカーが2種類(CEA CA-19-9)ともハイパーサーミアで治療する前の2分の1以下になっていました
4例目は肺がんで高齢のためご本人やご家族とも手術を希望されず、8回目終了時には腫瘍は軽度に縮小し腫瘍マーカー(SLX)が2分の1以下になっていました。
このように、予想外の嬉しい結果に驚いているところですが、ご本人やご家族も同様の驚きをもって結果を受け止めていらしたようです。
——近隣のがん患者さんが遠方まで行かなくてもハイパーサーミアを受けられるようになったことは、朗報です。この治療法を取り入れている施設を何度か取材したことがありますが、どこも良い治療成績でしたので、貴院の今後にも期待しています。
最後に、がん患者さんにメッセージをお願いします。
大田 症例でも紹介しましたように、ハイパーサーミアには私自身大きな手ごたえを感じており、がんとの闘いの強力な武器となりうるものと思っています。患者さんにも大きな希望を持って温熱療法を受けて欲しいと思います。
一方、患者さんの病状によっては緩和医療をお勧めするときもありますが、温熱療法にも疼痛の緩和や消化器症状の改善、抑うつ症状からの解放など緩和医療的効果についての報告が見られます。これは身体を温めることによる全身の血流障害の改善や、温熱療法により誘導・活性化されるヒートショックプロテインの働きによるものなどが考えられています。
がんの「積極的治療」と「緩和療法」、ハイパーサーミアは双方の治療効果が期待できるものと考えています。
●天童温泉篠田病院
〒994-0024 山形県天童市鎌田一丁目7番1号
TEL : 023-653-5711
https://www.tendo-shinoda.jp/
診療科目 内科 外科 整形外科 脳神経外科 耳鼻咽喉科 婦人科 歯科・歯科口腔外科 精神科(もの忘れ外来) 禁煙外来(予約制)
がん温熱療法 高周波式ハイパーサーミアシステム・アスクーフ8が導入されました