中国湖北省武漢市に発生した新型コロナウイルス感染(COVID-19)は、世界中に拡大しました。南極を除く5大陸に広がり、WHO(世界保健機関)の発表によれば3月7日時点の感染者数は100カ国10万1000人を超え、死者は3400人を超えました。前号の2月3日の中国以外の感染者数が185人であったものが、約1カ月で患者数は2万3900人と激増しています。
■国際オーソモレキュラー医学会から予防と治療を推奨
国際オーソモレキュラー医学会は栄養医学の専門家の立場から、中国で起きている新型コロナウイルスの感染予防と治療を伝えるべく、オーソモレキュラーニュースサービス編集長のアンドリュー・ソウル博士(写真1)が中心となり、42人の栄養医学の専門家による公式声明を1月26日に発信しました。
その中で、新型コロナウイルスの感染予防と重症化を防ぐための栄養素の種類と推奨量を提言(ビタミンC1日3g以上、ビタミンD3を1日2000IU、亜鉛1日20㎎、セレン1日100㎍、マグネシウム1日400㎎)、さらに、新型コロナウイルスに感染して入院した場合の高濃度ビタミンC点滴療法を、点滴療法研究会のプロトコルに従って12・5g〜25gで推奨しました。
■高濃度ビタミンC点滴で中国を支援する国際チームが発足
米国サウスカロライナ州の統合医療センター所長である中国人医師のリチャード・チェン博士は、母国の窮状を憂えて武漢に行き、新型コロナウイルス感染の治療にビタミンCの経口投与と点滴療法を政府や医療機関に提唱しました。さらに、彼の呼びかけで高濃度ビタミンC点滴療法に詳しい米国、日本、中国の3カ国による国際支援チームが2月4日に発足しました。
メンバーにカンザス大学統合医療センターのジーン・ドリスコ教授、キ・チェン教授、アンドリュー・ソウル博士、トーマス・レヴィ博士、そして私も加わり中国側専門家と積極的な意見交換やアドバイスが行われています(写真2)。
■武漢大学付属中南病院がビタミンC点滴の臨床試験を開始
2月11日に中国の武漢大学付属中南病院で、2月17日には西安交通大学付属病院でも新型コロナウイルスによる重症肺炎を高濃度ビタミンC点滴で治療する臨床試験が開始されました。中国では以前より感染症に対する高濃度ビタミンC点滴療法の研究が行われていましたが、この素早さには驚きです。
■国際オーソモレキュラー医学会として
しかし、新型コロナウイルス感染はみるみる世界中に拡がっていきました。そこで国際オーソモレキュラー医学会が提唱する、新型コロナウイルスの感染を予防・治療する栄養療法を周知する必要があると考えました。政府が国民に伝えている「うがい・手洗い・外出を控える」は予防の基本です。しかし、有効なワクチンや抗ウイルス製剤がない中、他に何ができるかが求められています。現状、感染しても無症状、軽症、重症、重篤な人がいます。特に重症例は高齢者や基礎疾患のある人に偏在しています。これは個々の栄養状態や免疫力などの違いによるものと考えています。なぜならば、通常のウイルス感染では栄養バランスがとれていて、十分な睡眠と休養、そして免疫力が健常であれば感染を予防し、仮に感染しても軽症となりやすいからです。たとえ、新型コロナウイルス感染の治療法がまったくない状態であっても、国民の健康を守るために過去の研究や経験から可能性のある治療法を探しだし、感染と拡散の予防を提案するのが私たち学会の医師と専門家の役割です。
3月3日に東京のキャピトル東急ホテルにおいて、30人以上のテレビや新聞など報道各社に向け、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防と治療のための栄養療法』と題した記者会見を国際オーソモレキュラー医学会主催で行いました。私は、国際オーソモレキュラー医学会が提唱している感染予防と重症化を防ぐための栄養素の種類と推奨量、サプリメントや点滴療法のエビデンス、そして現在中国で行われている高濃度ビタミンC点滴療法の臨床試験について解説しました。サプリメントについては、国内大手メーカーの商品をネットで購入した場合の1日分の費用が税込みで100円程度であること、食事で摂る場合の実際の献立も提案しました。
■栄養療法による予防や治療を否定する動き
残念なことに、国際オーソモレキュラー医学会の提唱する栄養による予防や治療をフェイク(偽情報)だと流布する動きも出てきました。いくら私たちがたくさんの文献を提示して栄養療法の根拠を説明しても、エビデンスがないと頭から否定するのです。しかしながら、私たちの提案は着実に世界に拡がっています。
日本でも、某国立研究所が新型コロナウイルスに対するビタミンD投与が現時点ではそのような効果は確認されていないと述べて、ビタミンDの効果を否定する論文を列挙していました。その中のビタミンDが無効であると根拠に挙げた論文の1つは、2カ月に1回の大量筋注投与で経口投与とは違います。また、もう1つの論文も執筆者が被験者の多くが健康意識の高い人を対象としたことと、研究を12月に開始したのが要因かもしれないと考察しています。このようなネガティブデータに焦点をあてるだけでなく、ポジティブデータにも同等の焦点を当ててもらいたいです。
国民は、大学のあらゆる栄養学の専門家からの提案を求めています。専門家に何をすべきかを教えてもらいたいのです。でも、残念なことに、今現在はそのような大学研究者や専門家からの提案はありません。これは海外と大きく違うところです。「そんな栄養療法はない。うがいと手洗いと外に出ないことだけしかない」と言われてしまうと、これ以上は進みません。しかし、私たちは栄養療法による予防や治療法があると考えている学会です。
■おわりに
私たちの提唱する栄養療法を広めていただきたい方々が、医師・歯科医師以外にも多くいます。それは薬剤師、看護師、栄養士の方々です。国際オーソモレキュラー医学会では、そのような方々と共同で新型コロナウイルスに立ち向かうことを決意しています。
参考ウエブサイト
■国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス(英語版)
http://orthomolecular.org/resources/omns/index.shtml
■国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス(日本語版)
https://isom-japan.org/news/list
■西安交通大学で行われている新型コロナウイルスに対する高濃度ビタミンC点滴療法臨床試験の登録番号: ChiCTR2000029957
■米国で登録された武漢大学の新型コロナウイルスに対する高濃度ビタミンC点滴療法臨床試験登録番号: NCT04264533
■報道関係者向け記者会見の動画 https://vimeo.com/395176471
柳澤厚生 (やなぎさわ あつお)
杏林大学医学部卒、同大学大学院修了。 医学博士。米国ジェファーソン医科大学リサーチフェロー、杏林大学医学部内科助教授、 杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育センター所長。2015年〜2017年に事業構想大学院大学研究所客員教授。
また、神奈川県鎌倉市にスピッククリニックを開設、現スピッククリニック名誉院長。点滴療法研究会会長。高濃度ビタミンC点滴療法をはじめとするさまざまな点滴療法を日本に導入。米国先端治療会議認定キレーション療法専門医(CCT)、アメリカ心臓病学会特別正会員 (FACC)、米国オゾン療法学会会員。2009年第10回国際統合医学会会頭。2012年より国際オーソモレキュラー医学会会長(カナダ)。2011年国際オーソモレキュラー医学会殿堂入り(カナダ)、2014年アントワーヌ・ベシャン賞(フランス)、パールメーカー賞(アメリカ)、世界神経療法会議最優秀アカデミー会員(エクアドル)を授与される。2018 年に東京で開催された国際オーソモレキュラー医学会第 47 回世界大会会長。著書 に『ビタミンCがガン細胞を殺す』(角川 SSC)、『超高濃度ビタミンC点滴療法ハンドブック』(角川 SSC)、『グルタチオン点滴でパーキンソン病を治す』(GB)、『つらくないがん治療:高濃度ビタミンC点滴療法』(GB)、『点滴でアンチエイジング』(主婦の友)などがある。