中国湖北省武漢市に発生した新型コロナウイルスは世界中に拡大の様相を見せ始め、本原稿を執筆している2月3日現在、中国本土の感染者数は1万7205人、重症肺炎による死者は361人に達しています。感染者は各国に広がり、中国本土以外では185人、死者は1人です。
日本での感染者数は20人で、水際で阻止しようと国を挙げて対策に取り組んでいます。私が会長を務める国際オーソモレキュラー医学会でも、積極的な栄養療法による新型コロナウイルスに対する具体的な感染予防と治療について3報の声明をカナダ本部より発表しました。
■中国の医師から届いた1通のメール
令和2年1月25日の昼頃に、1通のメールが届きました。差出人は上海市でオーソモレキュラー医学の普及活動をしている李莉医師(Dr. LiLi)です。メールは以下の通りです。
「武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染は日々拡大し、感染者は1287人で重症者は237人、既に41人の死者を出しています。このままでは中国全土に拡大する恐れがありますが、有効な治療が見つかっていません。私はビタミンCがウイルス感染に有効であると教わりました。ぜひオーソモレキュラー医学の専門家から、今回の感染拡大の対策を教えて頂きたい。そして中国の国民を救って欲しいのです。」
彼女の必死なメールを読んで、私はすぐにオーソモレキュラーニュースサービスの編集長アンドリュー・ソウル先生(写真)とトーマス・レヴィ先生に連絡を取り、李莉先生へ情報を届けることをお願いしました。
■国際オーソモレキュラ
同時に、国際オーソモレキュラー医学会の会長として何ができるかを考えました。
「中国や周辺諸国の国民は、新コロナウイルスの感染を極度に恐れている。私たちはオーソモレキュラー医学の専門家の立場から、中国で起きているコロナウイルスの感染予防と治療を広く伝えるべきである。」
ソウル編集長に進言し、直ちに世界各国の栄養医学の専門家である編集委員44人にメールを送付、彼らの情報や見解を求めました。そして、届いたたくさんの情報からソウル編集長が緊急声明文としてまとめることになりました。
ところが1つ問題が起きました。提案された経口のビタミンC摂取量があまりにも多すぎたのです。過去の様々な文献と専門家としての経験で、ビタミンCの摂取量が数グラムからなんと100グラムまで幅広くなったのです。いくら声明を出しても、あまりにも大量の投与では普通の医師や患者さんは拒否反応を起こすでしょう。私は編集委員全員に次のようなメールを送りました。
「皆さん、もっと現実的に考えましょう。ウイルス感染症を予防や治療をするにはビタミンCだけでなく、ビタミンD、亜鉛、セレンも必要です。それも全ての国の人々が理解をしやすく、そしてすぐに入手できる組み合わせと投与量であり、かつ安価でなければなりません。」
私から叩き台として基本的な組み合わせと投与量を提案し、編集委員らの意見を加えて発案から3日目に、第1報で「感染予防と発症時の症状の軽減を目的としたサプリメント」の提案をしました。5日目の第2報は「歴史的にみたビタミンCやビタミンDの大量投与」についてリリースをしました。そして第3報では、私とソウル編集長の共同執筆で「ビタミンC点滴による治療」について処方を提案しました。この点滴処方は点滴療法研究会で提唱している内容です。
■声明を英語、中国語、日本語で世界に配信
カナダ本部から英語版の声明がリリースされると、台湾オーソモレキュラー医学会が中国語版を、点滴療法研究会が日本語版を作成し、世界に配信されました。
『中国に拡がる新型コロナウイルス感染に関する国際オーソモレキュラー医学会の声明』(要約)
身体がウイルスに攻撃された際、体の抗酸化能力および免疫力を最大化しておくことが、症状の軽減や発症予防に大切です。重篤になってから治療するよりも、予防に力を注ぐほうが容易です。深刻な状況になりそうな場合は医療機関へ受診をためらうべきではありません。症状がでてしまった際には、薬と同時にビタミンCを併用することができます。
国際オーソモレキュラー医学会ならびにオーソモレキュラーニュースサービスの医師たちは、今後 起こりうるウイルス感染の予防や症状緩和のための栄養療法を推奨しています。ビタミンCと同時に、ビタミンD、マグネシウム 、亜鉛、およびセレンを一緒に摂取することで、ウイルスに対する免疫機能が強化されることがわかっています。
以下の安価なサプリメントの摂取は、大人に対する推奨量です。子供に対しては体重によって服用量を 変えてください。
⑴ビタミンC:3000㎎/日 (またはそれ以上。分けて服用。)
⑵ビタミンD3:2000IU/日(1日5000IUで開始、3週目から2000IUに減量。5000IUは125㎍、2000IUは50㎍に相当)
⑶マグネシウム:400㎎/日(クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、または塩化マグネシウムとして)
⑷亜鉛:20㎎/日
⑸セレン:100㎍/日
実際に感染してしまった場合は、ビタミンC点滴療法を受けることを勧めます。日本の点滴療法研究会では、インフルエンザ、帯状疱疹、風邪、風疹、おたふく風邪などのウイルス疾患の治療、また突発性難聴、ベル麻痺のようなウイルスの関与が疑われる疾患に対して、12・5g〜25gの高濃度ビタミンC点滴を推奨しています。成人に対して、軽度の症状には12・5g、重症には25gのビタミンC点滴を処方します。ウイルス感染の治療の有無にかかわらず、ビタミンC点滴は通常1日1〜2回、2〜5日連続投与します。
〈ビタミンC点滴12・5g処方〉
蒸留水:125㎖
50%注射用ビタミンC:25㎖(12・5g)
補正硫酸マグネシウム:10㎖
ビタミンB群:ビタミジン、パンテニール、シーパラ注など
投与時間30〜40分
〈ビタミンC点滴25g処方〉
蒸留水:250㎖
50%注射用ビタミンC:50㎖(25g)
補正硫酸マグネシウム:20㎖
ビタミンB群:ビタミジン、パンテニール、シーパラ注など
投与時間40〜60分
■おわりに
2月28日にシンガポールでASEAN統合医療学会が開催されます。私は講演予定の内容を急遽変更し、「オーソモレキュラー医学による新型コロナウイルス感染の予防と治療」について発表することにしました。そして、日本を含むASEAN各国の学会で共同声明をだすことになるでしょう。
本原稿が誌面に掲載される頃には、新型コロナウイルス感染拡大が終息していることを祈念しています。しかし、今よりさらに拡大している場合には、私たちの声明をより実行していくことが大切です。この鍵となるのが、シンガポールの学会の共同声明になることでしょう。
参考ウエブサイト
■国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス(英語版)
新型コロナウイルス感染に対する学会声明〈第1報〉
http://orthomolecular.org/resources/omns/v16n04.shtml
新型コロナウイルス感染に対する学会声明〈第2報〉
http://orthomolecular.org/resources/omns/v16n06.shtml
新型コロナウイルス感染に対する学会声明〈第3報〉
http://orthomolecular.org/resources/omns/v16n07.shtml
■国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス(日本語版)
https://isom-japan.org/news/list
オーソモレキュラーニュースサービスのアンドリュー・ソウル編集長
柳澤厚生 (やなぎさわ あつお)
杏林大学医学部卒、同大学大学院修了。 医学博士。米国ジェファーソン医科大学リサーチフェロー、杏林大学医学部内科助教授、 杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育センター所長。2015年〜2017年に事業構想大学院大学研究所客員教授。
また、神奈川県鎌倉市にスピッククリニックを開設、現スピッククリニック名誉院長。点滴療法研究会会長。高濃度ビタミンC点滴療法をはじめとするさまざまな点滴療法を日本に導入。米国先端治療会議認定キレーション療法専門医(CCT)、アメリカ心臓病学会特別正会員 (FACC)、米国オゾン療法学会会員。2009年第10回国際統合医学会会頭。2012年より国際オーソモレキュラー医学会会長(カナダ)。2011年国際オーソモレキュラー医学会殿堂入り(カナダ)、2014年アントワーヌ・ベシャン賞(フランス)、パールメーカー賞(アメリカ)、世界神経療法会議最優秀アカデミー会員(エクアドル)を授与される。2018 年に東京で開催された国際オーソモレキュラー医学会第 47 回世界大会会長。著書 に『ビタミンCがガン細胞を殺す』(角川 SSC)、『超高濃度ビタミンC点滴療法ハンドブック』(角川 SSC)、『グルタチオン点滴でパーキンソン病を治す』(GB)、『つらくないがん治療:高濃度ビタミンC点滴療法』(GB)、『点滴でアンチエイジング』(主婦の友)などがある。