連載 第84回 「医師である私ががんになったら」

もし「スクラム療法」も難しいようなら、体力が残されているうちに治療を切り上げて、行ったことのないところへの旅行や、読むことができなかった本を読んで過ごします

 
取材協力● 佐藤守仁 堂島ライフケアクリニック 院長

 もし〝がん〟になってしまった場合、当然医師に診ていただくことになりますが、医師によって治療法が異なる場合があります。最近はセカンドオピニオンも定着してきましたが、なかにはいまだに患者さんから「セカンドオピニオンを受けるなら他の病院に行ってくれ」などと主治医に言われたという話も聞きます。
 そこで、医師自身のがんに対するお考えや、どのような選択を取られるのかなどをがん治療で活躍されている先生にシリーズにてお聞きしています。
 今回は、生活・思考習慣の見直しや酸化ストレス対策、遺伝子治療、低用量抗がん剤治療、温熱治療、漢方治療など、統合的ながん治療を「スクラム療法」と称して実践されている、堂島ライフケアクリニック(大阪市)の佐藤守仁院長にお話を伺いました。

 佐藤院長は、患者さんのQOL(生活の質)に留意され、体と心の両面の観点から患者さんに寄り添った治療を行われています。

取材・構成 吉田 繁光 本誌発行人

血液オゾン療法や水素治療を効果の持続時間を考慮して、月に1~2回継続的に行う

——がんは早期発見が大事だと言われますが、かからないことにこしたことはありません。先生はがん予防に何かされていますか。
佐藤 糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病、がんを含めた腫瘍、そして老化、これらはすべて活性酸素が関与しています。病気はそれぞれがそれぞれの原因で発生してくるのでしょうが、病気のある状態や老化した状態は、局所または全身で活性酸素が過剰に産生されうまく消去できていない状態と考えます。
 つまり、体の中にある日々発生してくる活性酸素を消去する仕組みがうまく働いていない状態が病気の状態と考えると、逆に過剰な活性酸素をうまくコントロールできれば病気にはなりにくいと考えます。そこで、血液オゾン療法や水素治療を効果の持続時間を考慮して、月に1〜2回継続的に行うことが私の場合の病気予防であり、がん予防と考えています(あくまでも、個人の意見です)。
 そして、体とこころを若く保つこと、すなわち総合的に抗加齢医学を実践することが究極の病気・老化予防と考えます。その方法は、それぞれの方に様々お考えがあると思います。論理的な食事・運動・睡眠などの生活習慣は基本であるとして、有害金属や有害物質の除去、糖質制限やカロリー制限、消化力や腸内環境、ビタミン・ミネラルや抗酸化物質、免疫・ホルモンや自律神経系、レスベラトロールやNMNなどのサーチュイン関連、細菌・真菌・マイコプラズマ・ウイルスの予防や治療、成長因子や幹細胞治療などなど考えるべきことは多くありますが、これらと並んで活性酸素のコントロールはがん予防に最適であると考えています。
——活性酸素に気を付けることは、よく理解できます。
 それでは、早期発見のための検診はどうされていますか。
佐藤 私個人が「通常の検診を早期発見のために利用しているかどうか」は問わないでください。自分の年齢と相談しながら、今後の課題とさせていただきます。
 私が現在、がんの早期発見に有用と考えているのは、がん遺伝子検査、またはCTC(循環腫瘍細胞)検査であると思います。ただ今のところ、費用が高く時間がかかることがネックになっています。そこで香港大学と提携して、できるだけ安価に1週間程度で検査可能なCTC検査をクリニック独自で行うべく準備を進めています。もう少々お時間をいただきたいと思います。また、現在注目を集めているmicroRNA検査の今後にも期待するところ大です。

もし自分ががんになったとしても、現在クリニックで行っている治療方法を淡々と実践する

——CTC検査が安くなり、手が届く検査になることを強く期待しています。
 では、残念ながらがんになってしまった場合はどうされますか。治療法をお聞かせください。
佐藤 もし自分ががんになったとしても、現在クリニックで行っている治療方法を淡々と実践すると思います。ただ私の立場としては、保険診療のがん治療をすべて否定しているわけではないので、理解のある先生とご相談させていただくと思います。このスタンスは、患者さんの立場になっても変わりません。
 その上で、治療法はがんの進行度で変わります。ステージ ⅠやⅡでは、まずは手術を考えます。手術でがん細胞を取り除いて敵であるがん細胞をできるだけ小さくした状態で、遺伝子治療や抗がん生薬などのアジュバント療法を考えます。その際の手術療法は、できれば低侵襲な方法が選択できればと思います。
 また、手術による影響を最小限にするオゾン療法や栄養療法も取り入れるでしょう。低侵襲という点で、放射線トモセラピーや重粒子線などの局所治療と遺伝子治療剤によるアジュバント治療の組み合わせなどは、ステージⅠの肺がんや乳がんなどで研究の余地はあると思います。
 進行がんのステージⅢでも、もし適応があれば手術とアジュバント療法・栄養療法を選択しますが、万が一、運悪く手術適応ではない場合やステージⅣの場合は保存的な治療、すなわち当院で行っている「スクラム療法」を行います。
 瞑想や自律訓練法は健康な現在も行っていますが、これに加えて食事内容を含めたアルカリ栄養療法、自宅でできる温熱療法など日常の生活の中で実施可能なものをまず取り入れます。その上で、私が一番に取り入れたいのは、遺伝子治療です。特に、遺伝子検査でがん抑制遺伝子の異常やメチレーションが検出されているときは効果が高いと考えます。
 遺伝子治療を強化する方法として、温熱療法や免疫賦活剤である低分子化フコイダン療法などを適宜選択します。さらに、がんが過剰な活性酸素と関与している状態と考えると、オゾン療法や水素療法で体の酸化状態を改善することは必須でしょう。
 その他のがん治療剤としては、50〜100gの高濃度ビタミンC点滴や過酸化水素点滴、使用量を通常投与量の1/5〜1/10量に減量して副作用を軽減した低用量抗がん剤治療、免疫治療および免疫細胞治療、オリジナル処方の抗がん生薬、メトホルミンやDCAなど、ここに書ききれないものがあります。
 CTC検査は、がん治療の効果判定に有用です。腫瘍マーカーや画像検索で一見正常に見える場合でも、CTCが下がりきっていない場合は腫瘍が細胞レベルで残っていると考え、何らかの治療を計画すべきと思います。また、調節性T細胞などの免疫力検査も合わせて、治療効果や治療方針の参考とします。

体力が残されているのであれば、スクラム療法にトライしてみる価値はある

——先生は治療選択肢を多くお持ちですね。とても参考になりました。
 ところで、今お話しになったことで、仮にがんの発生時期が今より先の老年期になった場合であれば、何か違いがあるかお話しください。
佐藤 私の選択する治療に年齢の影響があるとすれば、手術の選択と手術方法、使用する薬剤や栄養素の投与量に関することかと思います。その他は、年齢による影響はほとんどないと思います。
——考えたくないことですが、万が一がんが進行して、医師より「もう治療法はない」と言われたらどのようになされますか。
佐藤 ステージⅣのがんでは、保険診療における殺細胞性抗がん剤治療を拒否した場合は、まだ体力が十分残されていたとしても緩和医療を勧められてしまいます。しかし、当院の治療では、ステージ Ⅳの方が完全寛解されたり、部分寛解でも好きな食事も摂れて元気に過ごされたりしている方が実際にいらっしゃいます。体力が残されているのであれば、スクラム療法にトライしてみる価値はあると思います。
 もちろん、それでも難しい場合もあります。もし自分がスクラム療法も難しいような状況になってしまったら、まだ体力が残されているうちに治療を切り上げて、行ったことのないところへの旅行や、読むことができなかった本を読んで過ごすと思います。
 緩和医療のお世話になるのは、「本当に動けなくなってからにさせていただきたいなぁ」と思います。