連載 リオルダンクリニック通信⑪

1年半のアメリカ留学で学んだがん治療
「炎症の治療」「正常細胞のサポート」「がんを殺す」

 
増田陽子 リオルダンクリニック フェロー 医師

 2月中旬にやっと日本に帰ってきました。リオルダンクリニックで研修した1年半は、クリニックでの研修に加え、様々なカンファレンスに出席したり、自分の勉強に集中したりできたので、アメリカの統合医療の流れや考え方をかなり吸収できたと思います。
 どうして私がこんなに自信満々かと言うと、2月末に出席したスイスの有名な統合医療の医師、Dr. Thomas RauのSwiss Biological Medicine Academyの4日間のセミナーで、自分が勉強してきたがん治療に対する考え方や方法が間違ってなかったと再確認できたからです。
 大変ありがたいことに帰国後もこの連載を書かせていただくことになりましたので、今回は1年半のアメリカ留学で学んだがん治療のダイジェストにスイスのエッセンスを加えてまとめさせていただきます。
 なるべくわかりやすくするために、「①炎症の治療」「②正常細胞のサポート」「③がんを殺す」の3つの柱に分けてご説明します。

①炎症の治療(体に悪いものを除去する)

 後から説明する、②正常細胞のサポートと③がんを殺す治療を無駄にしないためにも、がん患者さんの身体からがんになった原因を徹底的に除去してから治療します。これができていないか不十分な状態のままだと、せっかくほかの治療を行っても焼け石に水、もしくはがんとのイタチごっこになってしまうので、3つの項目(図1)の中で一番大切だと考えてください。
 医学的に言うと、慢性的炎症やその原因となる感染や毒素、アレルギーなどの治療がこの項目に該当します。患者さんによって炎症の場所や原因は違いますが、口腔内や腸内の炎症、毒素の除去は絶対におろそかにしてはいけません。
腸の改善
 まず砂糖、乳製品、グルテンなどの食物アレルギーの原因や加工食品を徹底的に避けましょう。加工食品に含まれる添加物はがんの原因になりますし、そもそも加工食品にはかなりの頻度で砂糖や小麦が含まれます。
 腸の健康は何より重要です。食物アレルギーなどで腸の粘膜(タイトジャンクション)に隙間ができると、アレルギーが悪化するだけでなくそこから重金属や有機毒素が体内に入ってしまう原因にもなります。腸内の感染により腸にある免疫機関であるパイエル板の働きや、T細胞という免疫細胞の働きが悪くなってしまうと、がんの治療が難しくなります。
口腔内の改善
 また口腔内にアマルガムや他の金属はないか、根管治療歴やキャビテーションがないかチェックすることも非常に重要です。トラブルがある歯に対応した臓器に、がんができることはよくあることのようです。
解毒
 体内の重金属、ホルモンバランスを撹乱する有機毒素の蓄積がないか検査し、ある場合には速やかにデトックスしてください。デトックス治療としては、食事をデトックス仕様に変えることや、キレーション 療法、解毒作用のあるクロレラやゼオライトなどのハーブやミネラル、遠赤外線サウナも有効です。どうしてその毒素が溜まってしまったのか、解毒システムを司る遺伝子のチェックも解毒治療の方法を考える上で役立ちます。

②正常細胞の健康をサポート

 体に悪い感染や毒素などの炎症をコントロールしてマイナスポイントを減らしたら、次は正常細胞をより健康にし、免疫がスムーズに働けるようにしてプラスポイントを稼ぎましょう。具体的には、栄養素や酸素がちゃんと細胞に届いているか、ホルモンや神経物質、自律神経のアンバランスがないかをチェックし改善します。
 足りない栄養素やホルモンがあれば、正常細胞の働きはもちろん低下してしまいますし、そもそもがん細胞は正常細胞が低酸素になった結果です。高圧酸素などの酸素効率を高める治療が、低酸素の状態を改善してがんに効果的なのはこのためです。睡眠時無呼吸の改善や、細胞の膜電位、つまりは細胞間環境を改善するアルカリ治療もここに分類されます。
 注意しなくてはいけないのは、一般的な検査の基準値は平均的な日本人の値であるため必ずしも理想的な値ではないということと、正しい検査なしでは状態を正確に把握することができないことです。
 たとえば食事に強く影響を受けるため、血性の脂肪酸を調べてもω3やω6の値が適正かどうかを判断することはできません。脂肪酸の値を見るためには細胞膜の量を調べてください。また心血管リスクになることが知られているLDLですが、すべてのLDL高値が必ずしも悪い訳ではないので、リスクとなるsdLDLもしくはLDL-pで判断します。
 神経伝達物質であるノルアドレナリンも、がんの血管新生を進めるため上昇がないかチェックすることが重要ですが、スポット検査よりも24時間蓄尿検査のほうが正確で理想的です。
 このように検査に十分注意してさらに最適な治療をするためには、栄養素のサプリメントも活性型であるか、量は十分か、ホルモンであれば人工ホルモンではなくナチュラルホルモンであるか、など考慮すべき点はたくんさんあります。

③がんを殺す

 ここまで来てやっと、がんに対して積極的に攻撃する治療法が効果を発揮できます。標準治療である手術や化学療法、放射線治療はすべてここに分類されます。この治療を積極的に行うのががん治療をする上で手っ取り早いと考えがちですが、これまでご説明した①抗炎症や、②正常細胞のサポートなしでは期待する効果は得られないと考えます。
 まず、食事から砂糖、精製炭水化物を除去します。がんを促進するインスリンの上昇を抑えるため血糖値をコントロールしてください。持続血糖測定器を使って、ご自身の血糖値の上昇パターンを把握できると完璧です。
 高タンパクの食事も非常に危険です。グルタミンはがんのエネルギー回路に直接入ることができ、がんを促進させます。必須アミノ酸を摂ることは重要ですが、必要量(1日15g)以上は食べないようにしてください。
 また先月号でもご紹介したがんの代謝療法、高濃度ビタミンC点滴や、インスリンとともに少量の抗がん剤を使うインスリン増感療法(IPT)、免疫療法の効果のあるヤドリギエキス 、局所温熱療法なども併用できればしたほうがよいでしょう。
 ここまで、様々な治療法やチェック項目をダイジェストでご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。何か治療に組み込めそうなものはありましたか? 私の言っていることが何となく納得できたかなと思える場合は、すぐにでも実践されることをお勧めします。と言うのも、今までご説明した治療を徹底して行うことこそが、がんを克服できる方法だからです。
 今回出席したスイスのアカデミーで、Dr. Rauがお話ししてくださったエピソードが印象的だったので最後にご紹介します。1つは、クリニック併設のホテルの食事係のスタッフに、もしも患者さんに禁止しているお砂糖や乳製品をお食事に使ってお出しした場合は解雇も辞さないという契約を交わしていること、もう1つはアカデミーの最後に私が質問した、「どうしたら患者さんに様々な制限のある食事などの生活習慣を変えてもらえるか」に対する答えです。
 Dr. Rauの答えは、「患者さんが、お砂糖、乳製品を今後も摂り続けると決めるなら、その患者さんには他のドクターのところへ行っていただく」でした。少し厳しすぎるような気もしますが、医師として患者さんの改善に必ずコミットしたいと思った場合、治療上大切なことを約束していただくためには、そこまでの真剣さで向き合うのが筋だと改めて痛感しました。患者さんと医師が、がんに真剣に向き合うからこその治療効果なのだと思いました。

写真1 Dr. Thomas Rau


写真2 参加者との写真


図1