連載 標準治療の限界を超える~治すことをあきらめないがん治療①

「標準治療」と「個別化治療」の役割とその範囲(その1)

 
蓮見賢一郎 米国法人 蓮見国際研究財団 理事長 医療法人社団 ICVS東京クリニック 理事長 医療法人社団珠光会 理事長

はじめに 

 今月より隔月で「標準治療の限界を超える〜治すことをあきらめないがん治療」と題した連載を寄稿させていただきます米国法人蓮見国際研究財団理事長の蓮見賢一郎です。
 科学技術の発展と共に、手術や抗がん剤治療をはじめとする標準治療の進歩には目覚ましいものがあります。でも未だに進行がんに対する治癒という命題の解決には至っていない現状を少しでも解決するために、臨床という医師の現場を通じて得た経験と必要な知識を整理してお伝えすることで、最後まであきらめずに治癒を望む患者さんへの指標として役立てることができれば幸いです。

標準治療の進歩 

 がんに対する治療は、この10年間で目まぐるしく変化を遂げてきました。その中心を担うものに、手術、抗がん剤、そして放射線が挙げられますが、それらの基本的な流れの底流になるものは「治療精度の改善」ではないでしょうか?
①手術
 手術をひとつの例に挙げますと、3Dモニターを用いた立体画像を基に、安全な切除範囲を決めて術中にもモニタリングを行うことで、手術の管理が楽になってきました。また、同時にダ・ヴィンチをはじめとするロボット化が進み、狭い視野の部位でもモニターを監視することで、多くの医師の参加と指導を行うことと同時に、手術時間の短縮と出血量を抑えることも可能になりました。
②抗がん剤と分子標的薬
 抗がん剤に関しては、以前のような細胞毒を中心とした開発から、細胞増殖に関与する酵素を阻害するものや、抗体により分子レベルの動きを制御する分子標的薬の開発へと移行しています。これにより治療精度の改善と副作用の軽減が可能になってきました。
③放射線治療
 放射線治療は今までの外照射中心の治療から徐々に内照射中心へと変化を遂げつつあります。
 そのひとつの例がBNCT(ホウ素中性子補足療法)になります。予めホウ素を投与することで病巣に選択的に集まり、その後外部から中性子線を当てることでホウ素ががん細胞内で核反応を起こし放射線を発生するしくみです。これにより、正常細胞には極めて被爆が少なく、目的とする病巣への治療が可能となります。
 外照射も以前は2次元照射でしたが、現在は3次元化し、目的とする腫瘍のみを照射ができるようになってきました。
 このように標準治療においても、科学技術の発達に応じてより精度が高く、より副作用の少ない治療法が開発されています。

がんの進行と臓器転移

 がんは未病の段階から発生しますが、時間をかけてゆっくりと増殖します。そして感染症やストレスなど何らかの刺激が入ることで、形質を変えながら増殖を続け、ある時期に達すると検診や症状の出現により発見されます。
 病巣は初期の段階では原発の部位に留まっていますが、その後はリンパ管を通じて所属リンパ節に移動して転移が発生します。この時点で身体の防御機能が働いて、関所といわれるリンパ組織で進行を阻止しようとします。しかし、もしこの関所が破られると、がん細胞は血液中に侵入し、他の臓器への転移が発生します。
 がんの治療を考える上で大切なことは、がん細胞が血液に侵入したか否かが、治療を組み立てる上で重要な問題となります。

がん細胞の血液侵入が治療に与える影響

 もしがんの転移が未だ所属リンパ節に留まっている場合は、「手術」「抗がん剤」「照射線治療」などの標準治療で対応することで、高い治癒率を達成することが可能です。この確率は治療技術の進歩と共に高まっています。このことは10年前の5年或いは10年生存率と比べてみても分かります(図)。
 しかし、もしがん細胞が血液中に侵入してしまったらどうなるでしょうか? その場合、治療に対する基本的な考え方がまったく変わってくることになります。血液に入ったがん細胞は、親和性のある臓器に移動して転移という形で新たな病巣を作り出します。この転移という現象には、3つの問題があります。
 1番目に転移しやすい臓器はどこになるか。2番目に細胞自体の分化度、つまり増殖の速度があります。そして3番目の大切な問題は、転移をした場所の環境でがん細胞がそれぞれ独自の分化と変異をくり返していくことです。
 まるで子供が生まれ、それぞれが独立した考え方を持ちながら、新たな家族が構成されて、大家族へと広がっていくのに似ています。

がん細胞の多様性

 がん細胞が血液に侵入して、多臓器転位をおこした状態を進行がんと呼んでいますが、それぞれの病巣が独自の分化を遂げている状況を考えると、それぞれの転移巣に対応した治療を検討しなければならないことになります。つまり、よりきめの細かい治療法が要求されることになり、その患者さんの病状に則した治療、「個別化治療」の考え方が必要となるのです。そして、それぞれの病巣に対応した治療を可能にすることができるのが「免疫治療」です。

標準治療と個別化治療 

 今までの内容をまとめてみると、標準治療は手術、抗がん剤、放射線治療などから構成されており、条件はあるものの保険診療の範囲内で賄われることが一般的です。そして、標準治療の適応は基本的には、がんの第Ⅰ期からⅢ期までの範囲で有効とされ、がん細胞が未だ血液に侵入していない状況ということになります。しかし、がん細胞が血液に侵入して他の臓器転位をおこした第Ⅳ期やがんの再発などの状況では、各病巣がすでに多様性の変化を帯びています。
 この状況で標準治療だけでの対応を考えると、多病巣のため、すでに手術適応はなく、抗がん剤にて治療を行うことになります。また手術に替わりうる治療として、多病巣向けの放射線治療を用いる考え方もあります。しかし、現実には多病巣に対する標準治療には限界があり、再発と再燃をくり返して、薬剤耐性が進み、体力を落として治療の継続が困難となることが一般的です。

図1