漢方薬

がん治療と漢方について
帯津良一 医療法人直心会 帯津三敬病院名誉院長に訊く
――がん治療において漢方は期待の持てる有効な治療法の1つ

取材協力●帯津良一 帯津三敬病院 名誉院長 取材●吉田繁光 本誌発行人
 

  本誌では「がん難民をつくらないために」をモットーに多くの治療法をご紹介してきましたが、漢方もさまざまな形でがん治療をサポートするのに有効な柱だと考えています。
 明治以来、西洋医学を中心に発展してきた日本の医療は、国民に大きな恩恵をもたらしました。しかし、中国で数千年の長い歴史で育まれ、日本に伝来してからはわが国独自のものとして発展してきた漢方に恩恵を受けてきた方も多くいらっしゃいます。
 特にがん治療は、治療の選択肢が多いほど患者さんにとっては良いことですので、西洋医学だけでなく、漢方も知っていただくことは患者さんにとってプラスだと思います。
 そこで今月号では「がん治療と漢方」を特集のテーマとしました。外科医としてがん患者さんの手術を多く経験された医療法人直心会帯津三敬病院の帯津良一名誉院長が、漢方を学ばれご自身の医療に取り入れられるようになった経緯や、漢方の効果などについてお伺いしました。

漢方は、うまく活用してがんに対抗する1つの武器としてはとても有効

――これまでも帯津先生には漢方についてお伺いしてきましたが、読者からの要望も多いので、再度漢方についてお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 まず、先生は東京大学をご卒業後、外科医として都立駒込病院で手術の症例を重ねていらっしゃいました。しかし、あるときからがん治療に漢方や気功を取り入れられるようになりましたが、どうしてそうなられたのかお聞かせください。
帯津 今お話しいただいたように、私は都立駒込病院外科医長として長年に亘りがんの手術を数多く手がけてきました。そして、手術の際には患者さんになるべく負担をかけない手術を行おうと、手術時間を短くすること、輸血量を少なくすること、合併症を起こさないようにすること、など日々手技が向上することを考えていました。
 ところが、その当時では最善と思われる手術を行っても、しばらく経つと患者さんが再発して戻って来られるので愕然としました。
 この状況をよく考えてみたのですが、結論は「西洋医学だけでは限界がある」ということでした。そこで、都立病院に勤務していたので友好都市である北京に視察に行く機会を得て、漢方や気功を学びがん治療に取り入れるようになりました。
――つまり、西洋医学だけではなく東洋医学も学ばれて、両方の長所〝いいとこどり〟をした医療を提供されるようになったわけですね。
帯津 その通りです。西洋医学はがんを局所的に診るにはとても優れた医学です。ところが、ある臓器とその隣の臓器との目に見えない関係や、体全体とその臓器の関係など人間をまるごと診ることが不得手です。
――漢方の長所はよくわかりましたが西洋医学一辺倒の医師の中には、いまだに「漢方は認めない」と言っている医師も散見されますが。
帯津 漢方は、患者さんの顔色や舌などを診て診断する「望診」と、声や臭いで診察する「聞診」、患者さんからの聞き取りで診察する「問診」、脈の状態からの「切診」の4つが基本です。
 これにより、お1人お1人の患者さんに最適と思われる処方をしますので、必ず同じ結果が出るということはありません。この点をそのような主張をされる医師たちは、「再現性がないじゃないか」と言い、認めない理由になっています。しかし、科学的な数値で効果を証明することは不得手ですが、実際に漢方治療を受けたがん患者さんには、抗がん剤の副作用を和らげたり、体全体に癒しの効果をもたらしメンタルケアにも寄与したり、免疫力が向上しQOL(生活の質)の向上に寄与したりしています。
 そして、抗がん剤のような強い副作用がないことも大きな長所ですから、うまく活用してがんに対抗する1つの武器としてはとても有効と言えます。

がんの発生部位からの選択ではなく、その患者さんの状態や体質などから選んだものを処方

――それでは、漢方治療を受けたいと希望して来られた患者さんには、どのように対応されますか。
帯津 あくまでも漢方は、がんと戦うための大きな戦略のひとつです。漢方ががん治療のすべてではありません。ですから、処方に際してあまり微に入り細に入りということまではしません。
 しかし、私のところへ来られる患者さんは、「手術が嫌だ、抗がん剤が嫌だ」と言って来られる方がほとんどですから、当然に患者さんの頭の中にはすでに漢方治療は入っています。初診の患者さんに、「標準治療以外には、漢方、サプリメント、ホメオパシーなどがありますが」とお話しすると、日本人にはホメオパシーには親近感が薄いですし、サプリメントよりはまずは漢方から始めたいという方が多いです。
――漢方治療には保険診療内で受けられる治療と、保険外診療があるとのことですが、この点をお聞かせください。
帯津 個々の患者さんに合った漢方を処方しますが、その際に経済的なことを考え保険適用の処方を希望される方には、経済的な理由も大事ですから顆粒タイプの保険適用のものを処方します。
 具体的には、補中益気湯、十全大補湯、人参栄養湯、六君子湯などから、がんの発生部位からの選択ではなく、その患者さんの状態や体質などから選んだものを処方します。
 しかし、多少の負担はかまわないので保険が利かない漢方でもよいとのことでしたら、生薬を煎じる漢方を処方します。顆粒タイプとどこが違うかというと、がんの発生部位も考慮した小回りが利く処方ができるということです。ですから、顆粒よりもっとその患者さんに合ったものを処方できるということが違いです。
――よく、顆粒タイプを『インスタントコーヒー』に、生薬を『本格サイフォン式コーヒー』に例えられますが、そんなイメージでしょうか。インスタントは手軽で安価ですが、サイフォン式は手間がかかりインスタントと比べれば効果が上がります。
帯津 顆粒タイプが決して効かないということではないのですが、決まっているものですので、出し入れができないということです。しかし、生薬はさまざまな種類を調合しますので、複合的な効果を発揮します。たとえば、前述の十全大補湯は免疫を上げる効果がありますが、その患者さんに胸水が溜まっていた場合にその胸水が取れるような処方を加えたり、治療の影響で白血球が減少していた場合には白血球の増加を促すような処方を加えたりすることができるメリットがあります。しかし、保険の範囲内で使用する顆粒タイプでは、そのような処方はできません。
――顆粒タイプと生薬、つまり保険適用と適用外の違いはよくわかりました。それでは、先生は漢方処方の際にどのような点に考慮されて処方されていますか。
帯津 大きく分けると、抗がん剤の副作用を減らしたり抗がん剤の影響で低下してしまっている「免疫力を上げたりするため」の処方と、抗がん剤治療は受けずに漢方一本で治療したいという患者さんのために「攻撃的な漢方」の処方との2つに分かれます。

がん患者さんが一歩前進する方法はいくらでもあり、そのうちの有力な1つが漢方

――「攻撃的な漢方」とは、どのようなものでしょうか。
帯津 もちろんがんへの攻撃だけに限れば、抗がん剤が一番です。しかし、個人差はありますが副作用があり、あまり副作用が強いと治療が継続できないこともしばしばあります。
 それに比べて、抗がん漢方は副作用がほとんどないのが特長です。たとえば、もうだいぶ昔になりますが、中国の研究所で抗がん漢方の研究をされていた王振国先生から「天仙丸」について教えられました。長年に亘り6000種類以上あるといわれる漢方生薬の中から、約20種類の漢方生薬を選び出し、組み合わせることで出来上がった抗がん漢方薬でした。
 「天仙丸」は北京の大きな病院でも使われていましたので、私は日本に持ち帰って患者さんに使ってもらうことにしました。
 ところが、「天仙丸」はカプセルに入っていたのでがん患者さんには特に飲みにくく、また、日本人には強力過ぎたのか胃腸障害を起こしてしまう患者さんも見られました。そこで、常用量を3分の1にして使っていましたが、そのことを知った王先生が日本人にも合った胃腸に優しく飲みやすい液体タイプの「天仙液」をつくられました。副作用もまずないことから、試してみる価値はある抗がん漢方だと思います。
――先生が印象に残られている、漢方治療で良い結果が得られた例をお話しください。
帯津 食道がんが再発した患者さんは、だいぶ進行した状態でしたのでペプチドワクチンの治療を受けようと思ったのですが、受けられるまで3カ月待ちとなってしまいました。そこで、「何もしないで3カ月を待つのは嫌だから」と来院され漢方治療を受けました。3カ月が経過したのでペプチドワクチン治療を受けに行ったところ、治療前のCT検査で驚くことにすでに漢方だけでがんが消えていたという症例があります。
 もちろんこのようなことは珍しく、すべての患者さんがそうなるわけではありませんが大きな可能性を示してくれました。その患者さんは、いまだに続けてその漢方薬を飲み続けておられます。
――最後に、漢方に期待する患者さんにメッセージをお願いします。
帯津 がん治療において漢方は期待の持てる有効な治療法の1つだと思います。
 西洋医学とうまく組み合わせて治療に取り入れていくことが、QOL(生活の質)の維持にもつながります。西洋医学は「治し」ですが、漢方は自然治癒力を高める「癒し」と言えますから、この「治し」と「癒し」の2つが組み合わされれば相乗効果が高まります。
 私は常々、治療を受けながら命のエネルギーを一歩でも上げればよいと考えています。そして、がん患者さんが一歩前進する方法はいくらでもあり、そのうちの有力な1つが漢方です。最後まで諦めずに、少しずつでも前に進んで行く気持ちを忘れないでください。

表1–1 漢方は弁症といって症によって出す薬が異なり、基本的には6つに分かれます


表1–2


表2 弁証だけではなく、病により生薬を選択することもあり弁病といいます


 本記事内のございます「天仙液」については、弊社発行の『がんを治す新漢方療法』に詳しく記載されています。
                                        
                    『がんを治す新漢方療法』
(クリピュア刊)

 
 
※なお、外部サイトになりますが、本文中の「天仙液」の公式サイトについては、下記を御覧ください。
                    天仙液公式サイト