特集 高濃度ビタミンC点滴療法

ビタミンCの新たな機能の発見
〜2つの論文から

佐藤 拓己 東京工科大学 応用生物学部 教授
    取材・構成  吉田繁光 本誌発行人

 本誌は創刊以来、高濃度ビタミンC点滴療法を特集として何度も取り上げてきました。毎回読者の方々からの反響は大きく、日本で取り入れられるようになってから10年以上の年月を積み重ねてきたこともあり、がん患者さんに定着してきた感があります。
 しかし、医師の中には「高濃度ビタミンC点滴療法はエビデンスがないから認めない」と否定する医師がいることも事実です。
 そこで、2018年に「ビタミンCによるがん転移の抑制メカニズムに新発見〜還元型と酸化型で生理作用に違い」、2019年に「ビタミンCと過酸化水素ががん細胞を除去〜低濃度ビタミンCの新たな機能を発見」と、2本の論文を発表された東京工科大学の佐藤拓己教授にお話しを伺いました。この2つの論文は、米国の薬理学専門誌『Reactive Oxygen Species(ROS)』に掲載されています。

東京大学を卒業し京都大学で分子医学を学ぶ

——先生は、ビタミンCとがんとの関係について貴重な論文を2本も発表されましたので、その内容を読者にお伝えしたいと思いました。今回は、快く取材をお受けいただきありがとうございました。
 まずは、論文の内容をお伺いする前に先生のご経歴からお伺いしたいと思います。簡単で結構ですので、お話しください。
佐藤 東京大学理科2類に入学し、研究室は農学部・畜産獣医学科で平滑筋薬理について学びました。卒業後は、京都大学大学院医学系研究科でヒトT細胞白血病ウイルスの転写調節を研究し、分子医学の分野で医学博士号を取得しました。
 その後、製薬会社の研究所に3年間勤務した後、大阪大学の蛋白質研究所に移りました。当時細胞死が世界の分子生物学の研究の中心的課題で、ここでは、どのようにしたら神経細胞死を止められるのかについての研究を行いました。
 2001年に岩手大学工学部の応用化学生命工学科に准教授として赴任し、引き続き化合物で神経細胞死を止められるかなどを研究していました。2003年と2007年にバーナム研究所のStuart A Liptonの研究室に留学し、NEPP11というプロスタグランジン誘導体がNrf2という転写因子を介して神経細胞を保護することを発見しました。
 そして、2013年に東京工科大学の応用生物学部応用生物学科教授となり、現在に至っています。
——東大、京大、阪大とすばらしいご経歴ですが、現在は先生の研究室ではどのようなご研究をされていらっしゃいますか。
佐藤 ミトコンドリアに注目してアンチエイジングを研究しております。人の細胞の生死に決定的役割を持つのがミトコンドリアですので、ミトコンドリアが活発に働いていれば細胞が活性化されて、アンチエイジング効果やがんの予防にも効果があると考えます。また、ケトン体は脂肪が分解されて産生されるものですが、特別な生理機能を有していることから、アンチエイジング効果に注目しています。
 また有機酸によるミトコンドリアの保護効果やケトン体のアンチエイジング効果の研究とともに、ビタミンCによるがん細胞の消去についても研究しています。
——そのようなご研究をされていて、ビタミンCとがんについての研究にも携わられるようになったのは、どうしてですか。
佐藤 ビタミンCを高濃度で投与することで、がん治療に効果があることが報告されています。食品やサプリメントでビタミンCを経口摂取しても、腸管を介した吸収は数グラムが限界ですが、点滴投与することにより数十グラム以上の還元型のビタミンCを血液に直接投入することができます。
 この療法は、副作用のないがん治療法として注目されていますが、その生理機能などの詳しいメカニズムについては明らかになっていませんので、研究を始めました。

還元型では細胞を殺し、酸化型では細胞を守るという、二面性がある

——では、ご発表された論文の内容を一般読者にもわかりやすくご説明いただきたいのですが、まずは2018年の論文「ビタミンCによるがん転移の抑制メカニズムに新発見〜還元型と酸化型で生理作用に違い」からお願いします。
佐藤 実はビタミンCに特別な興味があったわけではありませんでした。抗酸化剤の1つとして、神経細胞死を止めることができると考え、学生にテーマとして与えたにすぎません。フリーラジカル仮説から考えると、抗酸化剤であるビタミンCは細胞死を抑制し、ビタミンCの酸化型であるデヒドロビタミンCは細胞死を促進すると考えるのが常識的な考え方だったのです。しかしこの常識の反対の結果がでて興味を持ったというのが、私がビタミンCに関心を示すようになった経緯です。
 すなわち、研究した結果はその逆で、酸化型には有意な保護作用がありましたが、還元型には有意な保護作用は見られませんでした。
 不思議に思い研究を進めていくと、還元型ビタミンCはがん細胞に対して強い選択毒性があり、酸化型ビタミンCにはこのような選択毒性はほとんどありませんでした。はじめにお断りしておきますが、私の研究では還元型ビタミンCががん細胞に対して強い選択毒性があったことを認めました。しかし、それは基礎研究としての細胞レベルでの話であり、人に対する臨床研究としての結論ではないことをご理解いただきたいと思います。
 また、還元型ビタミンCによる毒性作用は、カタラーゼという過酸化水素を水と酸素に分解する酵素によって抑制されたことから、過酸化水素が産生されることが影響していると考えられます。
 これらのことから結果から、ビタミンCは「還元型」ではがん細胞を殺し、「酸化型」ではがん細胞を守る作用があることがわかったのです。さらにビタミンCはがん細胞の増殖を強く抑制する反面、正常細胞に対してはその機能を保持させる作用があることから、言わば「ジキルとハイド」のような作用があることがわかりました。つまり、ビタミンCはがん細胞や寿命の尽きた古い細胞を除去し、生まれたばかりの新しい細胞は守るのです。この性質は人にとってとても有益な作用で、このような性質を有する抗酸化剤は他にはなく、ビタミンCだけが有しています。
 結論としては、還元型ビタミンCには血液を循環する転移がん細胞増殖に対して強い抑制作用があり、がん細胞に対してのみ毒性を有しますが、酸化型ビタミンCはがん細胞の増殖を促進する作用があります。
 ですから、あくまでも基礎研究内での話ですが、還元型ビタミンCはがん転移の抑制に有効で、貴誌でよく取り上げられている高濃度ビタミンCによる治療はステージの進行したがんにも効果がある可能性があると説明できます。
 がんとは直接関係ありませんが、酸化型ビタミンCは細胞死を抑制する作用があることがわかったことから、たとえば脳虚血の治療などに応用できる可能性があることもわかりました。

ビタミンCは、過酸化水素の毒性を強化してがん細胞を死滅させる

——すばらしいご研究内容に驚いています。私は今まで多くの医師に高濃度ビタミンC点滴療法についてお話しを伺っていますが、機序のお話しでは必ず「活性酸素」「カタラーゼ」「過酸化水素」というワードが出てきました。今回先生の研究成果をお聞きして、とても納得いたしました。
 続いて、2019年に発表された「ビタミンCと過酸化水素ががん細胞を除去〜低濃度ビタミンCの新たな機能を発見」についてのご説明をお願いいたします。
佐藤 今お話しした通り、還元型ビタミンCにはがん細胞に対して強い毒性があることがわかりました。しかしながら、人の血中のビタミンCは通常は70 μM(マイクロモル)程度に保たれているのですが、このような低濃度のビタミンCだけではまったく作用がありません。 このような低濃度のビタミンCが存在すると、過酸化水素によるがん細胞の細胞死が促進されることを発見したことから、この研究をスタートさせたのです。ビタミンCが顕著な効果がある場合もある反面、まったく効果のない場合もかなりあります。ビタミンCが効果を上げるためには 「〝プラスアルファ〟が必要なのではないか?」これがこの論文の出発点です。
 過酸化水素または一酸化窒素は、特にがん細胞に対して強い毒性効果がありますが、人の血中の通常の濃度のビタミンCが、過酸化水素または一酸化窒素による細胞死を有意に促進することを確認しました(図1)。
 このことから、血中に通常存在する70 μM程度のビタミンCは、過酸化水素または一酸化窒素単独の場合よりも強くがん細胞を死滅させることを明らかにしました。
——結論として、過酸化水素ががん治療に効果があるということですが、過酸化水素点滴でがん治療を行われている医師もいらっしゃいますので、これも納得いたしましました。
 2つの研究ともすばらしい内容でしたが、今後に行ってみたいことはございますか。
佐藤 がん細胞は、血管内皮に接着して血管外に移動することで転移巣を形成します。この過程において、がん細胞が血管内皮細胞を活性化し、過酸化水素や一酸化窒素を産生する種々の酵素群を誘導することがわかっています。これにより、過酸化水素や一酸化窒素の産生が増強され、それらの濃度が増加します。今回の研究結果により、血中に生理的な濃度(70 μM程度)のビタミンCが存在すると、がん細胞が効果的に除去される可能性が示されました。
 ですから、過酸化水素または一酸化窒素は血中の通常濃度のビタミンCと共存すると、がん治療に効果がある可能性がありますが、実際は一酸化窒素は血管を急激に弛緩させて血圧を下げる作用があるので、過酸化水素による治療のほうがはるかに現実性があると考えます。すなわち、過酸化水素点滴をビタミンC点滴と組み合わせるということです。これは細胞レベルの実験結果から類推できる可能性です(図2・図3)。
 最初にお断りした通り、あくまでも細胞レベルの基礎研究ですので、がん患者さんに直接に利益をもたらすには、臨床の医師とタイアップした研究が必要だと思います。
 また、今回は還元型ビタミンCの効果に着目しましたが、今後は酸化型ビタミンCが細胞を保護するメカニズムについても研究を行ってみたいと思っています。
——本日は、貴重なお話しをありがとうございました。今後の研究の進展と、その成果ががん治療に有益なものとなることを願っています。
 

参考
2018年の論文名:「Protective Effects by Dehydroascorbic Acid through an Anti-Oxidative Pathway and Toxic Effects by Ascorbic Acid through a Hydrogen Peroxide-Dependent Pathway in Tumor Cell Lines」(和訳:ガン細胞の細胞株において、酸化型アスコルビン酸は抗酸化として作用して細胞を保護し、アスコルビン酸は過酸化水素の産生を増強して毒性を発揮する)
掲載誌:『Reactive Oxygen Spe-cies(ROS)』2018年6月25日号
 
2019年の論文名:「Physiological Concentrations of Ascorbic Acid Potentiate Cell Death by Hydrogen Peroxide and Nitric Oxide of Non-Attached Cancer Cell Lines for the Possible Clearance of Cancer Cells from the Microcirculation」(和訳:生理的な濃度のアスコルビン酸は、未接着のがん細胞において、過酸化水素による細胞死を促進する。この作用は微小循環からがん細胞を除去することに関与する可能性がある。)
掲載誌:『Reactive Oxygen Spe-cies (ROS)』2019年12月4日号

 

図1


図2


図3